多くの企業や団体が新人を迎え入れる際、その中には「斜(しゃ)に構えた態度」を持つ者が一定数存在するだろう。これは新しい環境への不安や、前の経験からの警戒心、あるいは単にその人の性格からくるものかもしれない。
しかし、そのような新人をどのように受け入れ、そして成長させていくかは、組織全体の雰囲気や生産性に大きく影響する問題である。
本コラムでは、斜に構える新人がどのような特徴を持つのか、なぜそのような態度を持つ新人が出現するのか、そしてそのような新人とどのように接すればよいのかについて考察していく。組織のリーダーや上司、同僚として、新人との円滑な関係を築くための参考としていただければ幸いである。
「斜に構える」という言葉は、日常会話でもよく耳にするが、その原意や語源を知る人は少ないかもしれない。
この言葉の語源は、実際の「構え方」、つまり物事への態度や姿勢から来ている。古くは武士が刀を構える際、敵に対して斜めに構えて防御や攻撃の準備をする様子から取られている。この構え方は、直接的ではなく、やや間接的、警戒しているとも取れる態度を示している。
新人は、時々、周囲の評価が高いものや流行りのものに敢えて賛同しない様子を見せる。特に、あえて流行りに乗らず、それを強調することで、自らの独自性をアピールしようとする傾向がある。
否定的な意見をいうことも多いので、「Dワード」もよく使いがちだろう。
※参考:Dワード「でも/だけど/どうせ/だって」の危険性【企業がポジティブに変化するためのステップ】
一般的な新人とは異なり、彼らは大勢での騒ぎや活動に参加することを好まない。むしろ、一人での行動を取ることが多いか、グループの中でもある程度孤立した位置を取ることが目立つ。
感情的になりにくい一方で、物事を冷静に判断する様子を持っている。これは他人の熱狂や興奮に流されることなく、自分の基準で物事を判断するためかもしれない。
彼らは他の人が知らないような情報や知識を頻繁に話題にすることがある。特定のスキルや経験を強調して、他者との差別化を図る行動、いわゆる「マウンティング」も見受けられる。
自らの経験や知識を背景に、他者の意見や行動に対して評価する言葉遣いをすることがある。このような行動は、他者を見下しているかのような印象を与えることが多い。
前職や学生時代の経験によるものが大きい。具体的には以下の通りだ。
学生時代の経験や育った環境は、人の性格や態度に大きな影響を与える。たとえば、リーダーシップを取る機会が多かった人は、意見を強く持ち、それを他者に伝えたいと感じることがある。
逆に、常にグループの一員として行動していた人は、多くの人の意見を尊重する傾向があるかもしれない。
前職や以前の職場での経験も、新しい職場での態度や行動に影響を及ぼす。特に、前職での成功体験や苦い経験が、新人の自信や不安につながり、それが斜に構える原因となることも考えられる。
現代の若者はSNSやメッセンジャーを中心にコミュニケーションを取ることが一般的だ。デジタルネイティブとして育った彼らにとって、直接的な人間関係の築き方や、フェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションの取り方は、意外と難しいものとなっている。これが、新人が斜に構える一因となる場合がある。
特に、オフラインの人間関係の複雑さや、過去の経験(いじめや人間関係のトラブルなど)が影響しているケースも考えられる。
新しい環境に飛び込むことは、心的なストレスや不安を伴うものだ。新人が斜に構える背後には、このような不安や緊張からくる防御的な態度があることも多い。自分を守るための心のバリアを持つことは、人として当然の反応である。
しかし、それが過度となると、周囲とのコミュニケーションが困難になることも。また、過去の失敗やトラウマが原因で、新しい環境や人々に対して過度に警戒することもある。
一人ひとりが持っている働く環境の理想像や価値観は、過去の経験や学びから形成されるものだ。新人が以前働いていた組織や学校、あるいは取り巻く環境で培った価値観が、新たに入った企業の文化や組織の雰囲気と一致しない場合、そのギャップを感じ取ることがある。
このようなギャップは、自分の考えやスタンスを強く持つ新人にとって、特に深く感じられるものである。企業の歴史や伝統、その場所ならではの作業フローやコミュニケーションスタイルなど、独自の文化や風土が形成されている中で、新人がそのすべてをすぐに受け入れるのは容易ではない。
斜に構えることは、そのギャップや違和感を埋めるための一つの方法とも言える。新人自身が保持する価値観を強く持ち続けることで、組織の中で自分の位置を確立しようとするのだ。
新人が斜に構える背後には、様々な要因が絡み合っています。
現代の社会背景や個人の過去の経験、そして企業文化とのギャップ。これらを理解し、新人の気持ちに寄り添うことが、良好な人間関係を築く鍵となります。
斜に構える新人の背後には、様々な背景や経験が存在する。それらを理解するためには、オープンなコミュニケーションが不可欠だ。フィードバックは、そのための重要なツールとなる。適切なタイミングで、建設的なフィードバックを行い、新人の意見や考えを受け入れる姿勢を持つことが重要だ。また、定期的な1on1のミーティングを実施することで、新人の悩みや疑問、提案を直接聞くことができる。
新人が斜に構える原因の一つとして、不安や疑問、そして過去の経験が挙げられる。これらを解消するために、経験者と新人をペアリングするメンターシップが有効だ。メンターとして指名された経験者は、新人に対して仕事のノウハウや組織の文化、風土を伝え、安心感を提供することができる。また、学びの機会を提供することで、新人のスキルアップや成長をサポートする役割も果たす。
メンター制度を導入している企業では、メンター・メンティ キックオフ研修などメンターとメンティ(指導される側)が一緒になって研修を受ける機会を設けることも良いだろう。
新人が斜に構える原因の一つに、自らの意見や提案が受け入れられないという経験があるかもしれない。企業側として、その意見を大切にし、実際の業務に反映する仕組みを持つことが必要だ。例えば、アイディアボックスを導入することで、新人の創意工夫を収集し、評価する。
また、定期的に行われるミーティングでは、新人にも意見や提案の発表の機会を与えることで、自らの存在意義や業務への貢献を実感させる。
斜に構える新人がチームに溶け込むためには、チームの一員としての絆を深める活動が効果的だ。社外での交流イベントや、チームの強化を目的としたワークショップなどは、仕事場以外での人間関係を築く良い機会となる。これにより、新人も他のメンバーとの距離を縮め、自然とチームに溶け込むことができるようになる。
新人が斜に構える場合、それは新しい環境や仕事内容に対する不安や不明点が存在することを示していることもある。
そういった新人には、新人研修・入社前研修などの教育プログラムを提供することで、不安を減少させることができる。具体的には、基本的な業務手順の研修、先輩社員からの業務のノウハウの伝授、外部講師を招いてのスキルアップ研修などを実施する。
人は自らの成果や努力が評価されることで、モチベーションを維持できる。特に、斜に構える新人は、自分の取り組みが正しく評価されているのか不安を抱えていることが多い。そこで、上司や先輩からの定期的かつ具体的なフィードバックが求められる。月一の業務評価ミーティングやプロジェクトごとのアフターレビューなどを通じて、新人の取り組みを評価し、今後の成長のためのアドバイスを提供することが重要だ。
斜に構える新人に対して過度なリソースや注意を向けることは、一見、適切なサポートと見えるかもしれない。だが、組織のマネジメントリソースの大半をそのような人物に割くべきとも限らない。それは時として組織全体のハーモニーを乱すリスクがある。
他の新人が目にするところで、斜に構える新人への特別な対応が行われていると、真摯に業務に取り組む他の新人のモチベーションは低下するだろう。その結果、彼らの努力は見過ごされるという印象を抱くことがある。
企業文化として成果主義を大事にしている場合、結果を出している新人へのサポートは優先されるべきだ。斜に構える新人への過度なフォーカスは、その文化と相いれない。
全新人が等しい状況からスタートしているわけではないが、公平な機会を提供することは極めて重要だ。斜に構える新人に特別な対応をすると、他の新人との平等性が乱れる恐れがある。
斜に構える新人も、時を経て自らの態度を反省し、成長するきっかけを掴むことがあるだろう。だが、それまでの期間、他の新人へのサポートを継続することで、彼らの成長を最大化させることができる。
結論として、どの新人にどれだけのリソースを投じるかは慎重に考えられるべきです。
斜に構える新人への対応も大切ですが、組織全体のハーモニーを最優先に考慮する視点が不可欠です。
新入社員の期待に応え、また組織の一員として彼らをしっかりと育て上げるための研修は多岐にわたる。斜に構える新人を効果的にサポートし、育てるために以下の研修プログラムが存在する。
新人はここで組織やチームに貢献できる人材としての基本的な姿勢やスキルを学ぶ。組織のビジョンやミッション、そして期待される行動様式を理解することが中心だ。
※参考:メンバーシップ研修
効果的な自己理解や振り返りの手法を習得することで、自らの行動や考え方の偏りを認識し、修正する手法を習得する。
※参考:新入社員向け 1年目振り返り研修
ここではビジネスマインドや社会人としての基本的なスキル・マナーを学ぶ。ビジネスのルールや組織内での振る舞い方、コミュニケーションの基本などが習得の対象となる。
※参考:社会人基礎研修
新人がチームでの仕事に適応するためのスキルや心構えを習得する研修だ。協力の重要性やチーム内での役割分担、コミュニケーションの取り方などを学ぶ。
※参考:新入社員向け チーム意識向上研修
自ら主体的に動き、チームや組織に貢献するためのスキルや心構えを習得する。問題解決の手法やプロジェクトの推進方法など、より実践的な内容が中心となる。
※参考:新入社員フォローアップ研修 主体性発揮編
新人が自らの仕事に対する本質的な志向性や意欲を高めるための研修だ。高い目標設定や自己啓発の方法、モチベーションの維持方法などを学ぶ。
※参考:本質志向・意欲向上研修
組織の中で個人が斜に構える動機を生む原因の一部は、組織文化にも起因することがある。そのため、斜に構えない健全な組織文化を築くことが、長期的な解決策となるだろう。
組織内での意見や感情が自由に共有される環境を作ることで、メンバー同士の信頼関係を築く。階層や役職に縛られない、フラットなコミュニケーションが必要だ。
組織全体で共有する価値観やビジョンを明確にし、それを基にした行動が求められる。これにより、目的意識を持って仕事に取り組むことができる。
様々な背景や価値観を持つメンバーが協力し合う組織は、創造的で柔軟な思考が生まれやすい。多様性を受け入れ、その違いを価値として活かすことが大切だ。
定期的なフィードバックを行い、互いの成長をサポートする文化を築く。これにより、メンバーは自らの強みや課題を明確に認識し、改善に取り組むことができる。
失敗を恐れずに新しいことに挑戦するための安全な環境を整える。失敗から学び、それを次の成功につなげるプロセスを重視する。
組織文化は一日や一年で変わるものではありません。
しかし、組織のリーダーやメンバーが一丸となって取り組めば、より健全で開かれた文化を築くことが可能となるでしょう。
本稿では、斜に構えた新人とは何か、その背景や原因、そして企業がとるべき対応策や研修方法、健全な組織文化の構築について詳しく解説してきた。組織やチームの中での個人の態度や振る舞いは、単なる個人の問題ではなく、組織全体の文化や風土、そしてマネジメントの質にも大きく影響される。
斜に構える新人が出現する背景には、情報化社会や個人主義の増加、学生時代の経験や前職の影響など、さまざまな要因が絡み合っている。
斜に構える新人との関わり方や対応策は、組織全体での取り組みとして進めるべきだ。また、他の新人にも適切な注力をすることで、組織全体のバランスを保つ。
健全な組織文化を築くことは、長期的な視点で新人やメンバー全員のモチベーションを高める鍵となる。オープンなコミュニケーションや多様性の尊重など、組織の価値観や慣習を見直すことが必要だ。
終わりに、組織における人間関係やコミュニケーションは常に変化と成長を繰り返すものだ。その中で、斜に構えた新人を含むすべてのメンバーが共に成長し、より良い組織を築くための手法や考え方を持ち続けることが、今後の課題となるだろう。