企業では従業員を育てるために、様々な教育制度を導入している。
今回紹介するメンター制度も、その中の1つだ。メンター制度を導入すると従業員だけではなく、会社全体にとってもメリットがある。しかしメンター制度を成功させるには、様々なポイントを抑えなければならない。失敗すると時間とコストの無駄になってしまう。
そこで今回は、メンター制度の概要を解説しながら、成功させる5つのポイントを紹介する。
先輩社員が後輩社員の悩みや相談などに乗ったりする制度だ。
相談に乗ってもらう方を「メンティ」、後輩社員の悩みに答える方を「メンター」と呼ぶ。メンターはメンティからの相談や悩み事に対して、今までの経験を元に回答していく。そのため社内である程度の経験を積んだり、スキルがあったりする従業員がメンターに任命されることが多い。
ちなみにメンター制度には、以下のような特徴がある。
基本的にメンターは、メンティの配属部署と利害関係のない従業員が任命される。直属の上司など、メンティと利害関係がある従業員をメンターにすることはない。
利害関係がある従業員をメンターにすると、以下の事態に巻き込まれる恐れがある。
メンティはメンター制度の恩恵を受けられなくなり、時間の無駄になってしまう。それを防ぐためにも、利害関係がない部署の従業員をメンターにした方がいいのだ。
メンター制度を続ける期間は短ければ3カ月前後で済むが、長い場合は3年以上続く。各企業の経営理念や考え方によって、期間は大きく異なる。またメンティの特徴やスキルによっても、適切な期間は違うため、従業員別に期間を設定することも大切だ。
ここからはメンター制度のメリットを5つ紹介する。
メンターから社内の雰囲気や社風・働いているときに意識していることを質問すれば、その回答を社内での立ち振る舞い方に活かせる。社内でどのような行動を取れば良いか分かるため、職場に馴染みやすくなるのだ。メンターが過去の失敗談をメンティに伝えて勉強させるのも、効果的だと言えるだろう。
たとえばメンティが入社したばかりだと、部署の様子や内部事情など一切分からない。そんな中で社内の空気感とはそぐわない行動をとってしまうと、同僚から冷たい視線で見られてしまい、職場に馴染むのに苦労してしまう。
その状況を回避するためにも、メンター制度は導入すべきだ。
メンターが効果的に関与することで、メンティは仕事へのやる気を出したり、自主的な姿勢の醸成につながることが期待できる。モチベーションが上がれば、スキルアップのスピードも上がる。結果、人材育成を効率的に行う手段としても役立つのだ。
直属の上司に対して質問できなかったメンティでも、メンターであれば気軽に質問できる可能性がある。質問できれば自身の疑問点や不安点を解消できるため、仕事が捗るかもしれない。違う部署の従業員だからこそ質問がしやすくなるのも、メンター制度の強みだ。
メンティは、メンターから教わった内容を仕事の糧にできる。メンターも相手へ伝える力を磨いたり、社内で大事にしてきたことを思い返したりできるため成長の機会がある。よってメンティ・メンター共に成長できるのだ。お互い成長し合って有能な人材となれば、会社で重宝されるだろう。
メンティとメンターの所属部署が違えば、メンティは必然的に違う部署の従業員と交流しやすくなる。たとえば、メンターが所属する部署に在籍する従業員を紹介してくれれば、そこで交流が生まれる。
必然的に違う部署のメンバーとの繋がりが増えていくため、配属先以外の繋がりを増やしたい方にもメンター制度は効果的と言える。
メンター制度を導入している企業の中には、成功するケースもあれば失敗するケースもある。ここでは、成功させるために必要な5つのポイントを見てみよう。
メンター制度の目的をハッキリさせれば、メンターはどのようにメンティと接するべきか見極めやすくなる。たとえば、以下のイメージだ。
このようにメンティの状況に応じて、メンターの立ち振る舞い方は変わる。
メンター制度の目的をハッキリさせずに進めると、メンティとメンター間で認識の齟齬が生じ、失敗に終わってしまう恐れがある。その状況を防ぐためにも、メンターを決める前にメンター制度の目的をハッキリさせるべきだ。
相性が悪いメンターを選ぶと、両者の空気感が悪くなったりして、メンティの成長を妨げる恐れがある。お互いを成長させるためにも、メンティと相性が合うメンターを選ぶべきだ。しかし「相性が良い関係性=仲良しな状態」ではない。会社によっては診断テストなどを行い、相性が合うメンターとメンティをマッチングさせるケースも存在するようだ。
メンターの上司など業務に関わっている方たちに合意を得ることも忘れてはならない。
従業員の一部がメンターに任命されたことで、他の従業員の業務に支障をきたす恐れがあるからだ。
仮に5人いる部署のうち、1人(Aさん)がメンターに任命されたとしよう。Aさんがメンターとしての活動を始めたことで、15%分の業務が残ったとする。万が一メンターの同僚が、この話を聞いてなかった場合、部署内はパニックに陥るかもしれない。余った15%分の業務を、どうするか決めていないからだ。別の従業員がこなす方法もあれば、Aさんが残業をする方法もある。15%分の仕事を部署内でどのように処理するか決めないと、業務がストップするかもしれない。
業務内容によっては部署内だけではなく、社内全体の業務をストップさせることになる。この状況を回避するためにも、関係部署への同意は必須だ。従業員同士の関係性を崩さないためにも、前もって伝えることが大事だ。
メンター制度を実施するときのルールを決めることも忘れてはならない。メンター制度を勢いで運用してしまうと、トラブルのリスクが上がったりメンター制度の効果が薄れたりするかもしれないからだ。
最低限、以下のことは決めた方がいいだろう。
1on1での相談を重ねていくと、メンター以外の誰にも言えない内容を相談されることもある。
基本的にメンター制度の中で聞いた話は、他の所へ漏らしてはいけない。それが原因で、メンティがトラブルに巻き込まれるかもしれないからだ。
たとえば、このようなトラブルが考えられる。
もちろん、内容によっては適切な部署・上司へのエスカレーションは必要になるが、不必要に周囲に言いふらすことがないように気をつけよう。メンティが快適に働くためにも守秘義務は守るべきだ。
メンターと相性が合わないときに、メンティが相談できる窓口を設けることも大切だ。今のメンターに相談するのが苦痛で、精神的に滅入っているケースもある。早めに手を打つためにも、相談窓口を設けよう。
ちなみに相談担当は、別の従業員に任せる場合もあれば、外部の専門家に任せる場合もある。
対応できるスタッフの人数や予算に応じて、使い分けるといいだろう。
メンターとの面談時間や頻度についても決めておこう。たとえば、毎週金曜日の16時~1時間程度といったイメージだ。
面談時間や頻度を前もって決めれば、他の業務との調整もラクになるだろう。
急にメンターに任命されたとしても、適切な対応ができる社員ばかりではない。メンターに任命された方に向けてメンター研修などを早いうちに実施することが良いだろう。メンティの管理方法や困った時の対応について学ぶことができる。
メンティだけではなく、メンターのケアもしよう。メンターの中には、自身のイメージ通りにメンター業務が進まずに思い詰めてしまう人もいる。そうならないよう、他の従業員はケアすべきだ。メンターの悩みや相談事を聞いてあげる体制を社内で作ることを忘れてはならない。
最後にメンター制度を導入している企業の事例を紹介する。
公募制のメンター制度を取り入れている。これはメンター制度に対して興味・関心を持っている人材に、メンターを任せたいということで始まった。しかもオンライン上で、メンターがメンティに対してコミュニケーションが取れる形になっているため、コロナ禍以降のリモート環境でも成り立つという強みがある。
経営陣がメンティとなり、若手社員がメンターとなる「リバースメンター制度」を導入している。若手社員が経営陣に対してITやコンピュータ関係の知識を共有したり、若手社員ならではの視点を新商品開発に役立てるなど、若い社員の力を活用するために設けられた。当初は、希望した経営陣20人ほどが受講していたが、数年後には経営陣が200人前後受講するプログラムへと進化した。
「Exec Mentoring Program」と呼ばれるプロジェクト名のメンター制度が実施されている。自社で選抜されたメンバーが受けられるプロジェクトで、メンティの希望に沿ってメンターを選んでいるのが特徴だ。メンバーの中には自社の経営陣にメンターをしてもらい、刺激的な時間を過ごせた方もいる。普段話すことのない経営陣をメンターとして迎えるのも、新たな発見につながり面白いかもしれない。
メンター制度は社内のメンティに対して、プラスの影響を与える。メンティは、自分の所属部署とは違う従業員に様々な情報をメンターとして伝えてもらうため、仕事で役立つ情報を得られるかもしれない。
ちなみにメンター制度を取り入れるメリットは、以下の通りだ。
メンティ・メンター・会社の3つにとって、メリットがある制度だと言える。
しかしメンター制度を実施したからと言って、必ずしも効果が出るとは限らない。
成功させるには、これらのポイントを抑えよう。
メンター制度を成功させれば、会社は大きな成果を得られる。
ぜひメンター制度を、社内で有効活用していただければと思う。