数十年前と比べると時代の流れはおどろくほど速くなっている。2022年はAI元年と言っていいほどのAI技術進捗があり、さらに変化が加速した印象だ。2024年に入ってもその勢いは衰えていない。OpenAI社、それに投資したMicrosoft社、Google社、Meta社などビッグテックがAIに全力をかけていることからも、ITやAIの発達により、不要な仕事が今後急速に増えることが見込まれている。
そんな中、経済産業省から「リスキリング」と呼ばれる言葉が提唱された。この取り組みは日本企業だけではなく、海外の企業でも行われている。とは言っても、概要や導入の仕方について詳しくない方は多いだろう。
今回はリスキリングの概要を解説しながら、導入するときに意識していただきたい5ステップについて紹介する。
目次
リスキリングとは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で役立つスキルや知識の習得を目的に、勉強してもらう取り組みのことだ。
経済産業省によると「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されている。(経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」より引用)
この記事を書いているリスキルという研修会社もリスキリングという用語に由来して命名されている。(ECサイトのように研修が検索でき、すべての研修が何人でも料金一律で実施できる人材育成専門企業だ)用語集もぜひご覧いただきたい。
現代は「第4次産業革命」に突入しており、人間に代わってロボットに業務を任せるケースが増えると言われている。その中の代表例として「 商品の製造」「事務作業」「倉庫での肉体労働」が挙げられる。業務がロボットに置き換えられると、その業務に携わっていた従業員たちは、働く場を失ってしまう恐れがある。
しかしロボットに置き換えられたとしても、下記のように新たな業務も出てくる。
スキルを習得していなければ、上記のような業務をこなすことは難しい。そこで登場するのがリスキリングだ。リスキリングによって、これらの業務に関係するスキル・知識を習得しておけば、従業員は別の業務に就ける。
ここからは、国内でリスキリングが話題になっている理由を3つ紹介する。
DXとは社内のデジタル化を進める取り組みだ。コンピュータやAIなどのデジタルを活用しながら業務を行うことで、業務効率のアップや良質なサービスの提供など、事業運営に良い影響をもたらす。
DXを推進している企業は少なくないものの、現場で実践するにはデジタルやコンピュータに関する知識を習得する必要がある。DX関連の業務に携わったことがない方は、聞き馴染みのないスキルを習得しなければいけない。結果、リスキリングが注目されるようになった。
さらにAIの発達が大きい。ChatGPTに代表される驚異的なアウトプット能力を持ったジェネレーティブAIがどんどん出てきており、これまで大丈夫だと言われていた創造的な仕事に関しても影響が出始めている。
新型コロナウイルスの流行によって、働き方が変わったケースは多い。社内で働いていた方がテレワークに変わったり、顧客とのやり取りが対面からオンラインへ移行したり、既存の働き方では対応できないケースも増えてきた。
それに伴い、新たなスキルを身につけなければならない状況になっている。これもリスキリングが注目されている理由の1つだ。
たとえば2020年に開催された世界経済(ダボス)会議では「2030年までに地球人口のうち10億人をリスキリングする」と発表された。さらに経団連でも2020年11月に発表された「新成長戦略」の中で、リスキリングの必要性について触れられている。
このように国内外問わず、リスキリングに関する宣言がされてきたのも注目されるようになったきっかけと言えるだろう。
経済産業省によると、以下のように違いが示されている。
リスキリングは「リカレント教育」ではない。リカレント教育は「働く→学ぶ→働く」のサイクルを回し続けるありようのこと。新しいことを学ぶために「職を離れる」ことが前提になっている。(経済産業省「リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―」より引用)
つまり、リカレント教育は職を離れる上で学ぶ→働くを繰り返すことであり、リスキリングとは社内でより成果や価値のあるものを創るために仕事に必要なスキルを学ぶという意味合いが強いといえる。
リスキリングでの学びの対象は、今後仕事で活用するであろうスキルに限定しているため何でも学ぶことがリスキリングではないということは理解しやすいだろう。
リスキリングを行うメリットはたくさんある。ここでは3つに絞って見てみよう。
新しいスキルを習得できるため、社内に新しいアイデアが生まれやすくなる。そのためリスキリングを上手く活用できれば、事業の陳腐化や時代の移り変わりによる経営悪化を防げる。社内に新しい風を吹き込めるため、時代に取り残されたくない企業はリスキリングを行った方がいいだろう。
リスキリングで習得した内容をDXに活かせば、業務の効率化が期待できる。実現すれば、以下の恩恵を受けられるかもしれない。
会社と従業員の双方の満足度を高める意味でも、リスキリングは有効だ。
社内の文化を知っている従業員に取り組んでもらえれば、リスキリングによって習得したスキルを、どのように社内へ応用すればいいかイメージしやすい。
新しいものを取り入れるだけではなく、既存事業と折り合いをつけながらバランスよく融合させないと事業は上手く立ち上がらない。社内の文化を知っている従業員がリスキリングに取り組むのは、事業を流れに乗せるために有効な方法だと言えるだろう。
ここからは、リスキリングを導入するときのステップを5つに分けて解説する。
ひと口にリスキリングでスキルを習得すると言っても、企業の特徴や目標によって身につけるべき内容は違う。したがって業績や事業内容などのデータを参考にして、リスキリングで何を習得すべきか決めた方が良い。
ちなみにデータを参照するときは、データベースやAIを活用するとリスキリングで習得すべき内容を見つけやすくなる。各種分析ツールもあるため活用するといいだろう。
リスキリングに取り組む従業員が、効率よくスキルを習得できそうなプログラムを考えることが大事だ。会社によって適しているプログラムは異なる。
またプログラムの構成や順番にも気を付けた方がいい。たとえ質の高いプログラムを用意しても、受講させる順番を間違えるとスキルの習得度合いが落ちてしまうため要注意だ。
プログラムを参考にしてコンテンツを決める。社内で開発するケースもあれば、外部のコンテンツを使うケースもある。ちなみにコンテンツには、以下のものがある。
希望する運用方法や予算に合わせながら決めるといいだろう。
プログラムとコンテンツを用意したら、各従業員に取り組ませる。あらかじめ時間を決めておくケースもあれば、好きな時間に取り組んでもらうケースもある。
ただし就業時間外に実施すると従業員の不満を高める恐れがあるため、実施時間を決めるときは、従業員の意見も参考にした方がいいだろう。
リスキリングによって習得したスキル・知識が「宝の持ち腐れ」にならないよう、実践で使ってもらうことが大切だ。社内で試せる場合は、業務中に実践してもらう機会を設けるといいだろう。
ここからは従業員にリスキリングを行ってもらうときの、ポイントや注意点を紹介する。
社内で協力してもらえる体制を作るには、リスキリングの良さを経営陣に伝えたり、自らが取り組んだりして賛同者を増やすことが大事だ。賛同者を集めれば社内に協力体制ができる。逆に反対派の方が多いとリスキリングの導入が難しくなるため、味方をたくさん作っておこう。
リスキリングに取り組む従業員の中には、途中でモチベーションが下がる人もいる。リスキリングは継続することで効果を発揮するため、以下のようにモチベーションが維持される仕組みを考えることが重要だ。
リスキリングに取り組みたくなる仕組みを設ければ、従業員も続けられるようになるだろう。
たとえ質の良いコンテンツを利用したとしても、それが社内の課題解決に結びつくとは限らない。コンテンツ選びを間違えるとリスキリングの効果が期待できないため、社内のリスキリングにマッチするコンテンツを選ぶことが大事だ。
万が一社内での選び方が分からないときは、外部の専門家に相談してもいいだろう。リスキリングに関する実績が豊富であれば、最適なコンテンツを提案してくれる。
既存のコンテンツだけではなくオリジナルのコンテンツを制作してくれるケースもあるため、社内の状況に合わせて選ぶといいだろう。
リスキリングは様々な企業で導入されている。最後にリスキリングの事例を3社紹介する。
アメリカにある通信業界大手の会社で、リスキリングの取り組みを比較的早く始めた企業だと言われている。リスキリングを導入したきっかけは、2000年代に起こった通信業界の革命に対応できる人材を増やそうとしたからだ。
2008年に自社の従業員が持っているスキルを調査したところ従業員の約半数は、社内において陳腐化するスキルしか持っていないと判断された。このままいくと通信業界の移り変わりに対応できないと感じたため、2013年に自社の従業員10万人を対象にリスキリングすることにした。
10億ドルを投じて行われたビッグプロジェクトになったが、リスキリングに参加していない従業員と比べて、参加した従業員の昇進率は上がった。さらに退職率を抑えることにも成功したため、恩恵を受けられた取り組みだと言えるだろう。
2020年6月30日に、社外の人材(2500万人)に対してリスキリングする機会を設けることが発表された。雇用を生み出したりスキルを習得させたりすることで、新型コロナウイルス感染による経済ダメージを抑えるのが狙いだ。さらに他の団体と連携した活動にも取り組み、世界規模での活動となっている。
全社員に対してリスキリングが実施され、DXの基礎に関する教育が行われた。グループ会社の日立アカデミーでは「DXを推進する人材育成」や「DXリテラシー研修」と呼ばれるプログラムを用意しており、日立製作所の関係者以外も受講できるようにしている。
リスキリングは様々な国の企業で活用されている。時代の移り変わりが激しい現代では、多くの企業にとって必要なことだと言えるだろう。ちなみにリスキリングを取り入れるメリットは以下の通りだ。
したがって従業員だけではなく会社全体にとっても、リスキリングに取り組むメリットは大きい。リスキリングを導入すれば組織に新しい風を吹き込むことにつながるため、業務内容を少しずつ変えていきたい企業に最適だ。
しかし、社内でリスキリングを実施するときは、正しいステップで行わなければ成功させるのは難しい。成功率を上げたいのであれば以下の5ステップを意識してリスキリングに取り組もう。
なお、リスキルの提供するリスキリングDX人材育成研修では、さらに詳しく学ぶことができる(社員研修全体の検索はこちらから)。管理職研修など、階層別研修に一部組み込んで実施することも良いだろう。ぜひ検討してほしい。
今後はロボットに代替される業務が増えていく一方で、新たに生まれる業務もある。新たに発生する業務に関するスキルをリスキリングによって身につけることで、既存の従業員の活躍の幅が大いに広がる。社内にリスキリングを取り入れて、時代にマッチした業務スキルを保有した従業員を増やしてほしい。