会社を挙げて社内の業務効率化を図ろうとしたものの、失敗に終わるケースは珍しくない。そんな中、世の中から注目されているフレームワークがある。それは「OODAループ」だ。社内の業務をスムーズに進めたい国内企業や海外企業で導入が進んでいる。しかし、OODAループを導入するだけでは力を発揮しない。上手く運用することで、初めて結果を出せる仕組みとなっている。
そこで今回は、OODAループの内容を紹介しながらメリットやデメリット、上手に運用するコツを解説する。
目次
OODAループとは、アメリカの「ジョン・ボイド」氏によって誕生したフレームワークで、戦場で使われていたものだ。戦場の状況は日々変わるため、各兵士が臨機応変に対応しなければならなかった。しかし戦場では、日々何が起こるか分からない。そこで兵士たちが「状況観察→行動」まで短時間でできるよう、作られたのが「OODAループ」だ。現代ではビジネスの中でも広まり、欧米企業や国内企業でも使われている。企業の中にはOODAループを導入して、業績が上がったケースも多い。
ちなみにOODAループに似たもので、PDCAサイクルと呼ばれるものがある。これは「Plan(計画)→Do(実行)→Check(確認)→Act(改善)」の順番で回していくフレームワークのことだ。OODAループは意思決定に重点を置いているのに対し、PDCAサイクルは改善に重点を置いている。両方とも4つの手順を踏むが、それぞれの用途は異なるので気を付けよう。
話題になった理由は、時代の移り変わりが速くなった今、PDCAサイクルよりもOODAループの方が効果的だと言われているからだ。世間ではAI時代の到来やテクノロジーの急激な変化によって、できるだけ早く物事に対応しなければいけないという風潮が広がりだした。PDCAサイクルの運用は基本的に中長期間となっているため、もっと早く一巡できるフレームワークがないか探し出した。その結果、短期間での運用がメインとなっている「OODAループ」が注目されたのだ。しかしPDCAサイクルが役に立たないかというと、そうとは言い切れない。なぜならOODAループと相性の良いケースもあれば、PDCAサイクルと相性の良いケースもあるからだ。つまり、そのときの内容に応じて使い分けることが大切と言える。
ここでは、OODAループのメリットを見てみよう。
決まったステップに沿って作業するため、計画から実行までのプロセスが分かりやすい。OODAループの項目や流れも決まっているので概要を覚えれば、使い始めるまでのハードルも低くなるだろう。
現段階での時代背景やマーケット状況を見ながら、時代に合ったサービスや商品を提供できるのもOODAループの強みだ。たとえば家電製品を持っている人が少なかった時代の場合、テレビに対して憧れを持つ人は一定数いたので、テレビの需要は高かった。しかし現代はインターネットによる動画視聴者が増えたため、テレビよりもスマホやパソコンの需要が増えている。このように、現在の状況を反映させやすいのがOODAループの特徴と言える。
OODAループのフレームワークに沿って業務を進めれば、自分の判断で動けるので、上司からの指示を待つ時間が減る。業務中の無駄な時間が減れば、別のことに時間を回せるようになる。そのため生産性を向上させたい企業にとっても、メリットと言えるだろう。
一方、OODAループにはデメリットもあるので紹介する。
OODAループは個人向けのフレームワークとなっており、場合によっては個人に対する権限を与えすぎる恐れがある。その結果、従業員の中にはOODAループを使いこなせずに、仕事上で大きなミスを犯してしまうかもしれない。OODAループを上手く運用できないケースもあるので、従業員のスキルに合わせて権限を付与させることが大事だ。
各従業員にOODAループの管理を任せっぱなしにすると、それぞれが違う方向へ動き出す恐れがある。足並みがそろわない状況になってしまうと、業務効率が悪くなったり得たい成果を得られなかったりする。そのため、各従業員のOODAループを管理できるリーダーを揃えておくことが大事だ。少なくとも経営陣や管理職・チームリーダーなどの責任者には、OODAループの管理スキルを身につけさせた方がいいだろう。
ここでは、OODAループで決まっている4つのステップを紹介する。
どのような状況になっているのか見渡す作業だ。様々な情報を集めたり、状況を知ったりするイメージだ。たとえば以下の状況を指す。
あらゆる情報をキャッチする作業が「Observe」だ。
観察して把握した内容を元に、どのような結果が得られるのか判断する作業だ。
起こっていることを理解して、様々な意見を出し合うのが「Orient」だ。
ステップ①と②の結果を元に、どうやって行動するかを決める。以下の例が当てはまる。
アクションプランを考える作業が「Decide」だ。
ステップ③で決めたことを行動に移すのが「Act」だ。
OODAループは短期間での運用を目的としているので、ステップ③が決まった段階で、速めに行動した方がいいだろう。
OODAループの結果を振り返る時間だ。行動して得られた成果を元に分析・調査をし、次回の行動に活かす。改善して再度OODAループを回す場合もあれば、成果を出すのが厳しいため断念するケースもある。もし誰も発言しない場合は、全員が発言する状況を作るといいだろう。順番に意見を言ってもらったり、全員に話を振ったりすれば実現できる。様々な視点から意見を言ってもらい、次につながりそうなアイデアを見つけよう。
ここでは各従業員が、OODAループを上手く運用するポイントを紹介する。
社内の情報を従業員に共有しなかった場合、OODAループを上手く回すことは難しい。なぜなら会社と従業員の方向性にギャップが生じ、目指すべきゴールがずれてしまう恐れがあるからだ。
ちなみに情報共有には、以下の方法がある。
社内チャットやSNSなどを活用すると共有できる。共有すべき情報を管理職の方がチームメンバーに送ったり、広報の方が社内の専用掲示板で共有したりなど様々な方法がある。アプリや業務管理のツールもあるので試しつつ、自社に合うものを選ぶことが大事だ。
勉強をしながら、従業員同士で持っている情報を交換し合うのもいいだろう。複数人で勉強に取り組むと勉強のやる気が出たり、自分が持っている情報を共有したりする機会が増えて、お互いのスキルアップにつながる。また複数人で交流する機会を作れば、新しい発見が生まれて勉強の効率が上がるかもしれない。とくに1人で勉強できない従業員には、おすすめした方がいいだろう。
決まった従業員ばかりOODAループを回し続けていると、他の従業員の成長を妨げたり、チャレンジ精神を削いだりすることになりかねない。そのためOODAループの運用に慣れてきた従業員に、少しずつ権限を与えていく風潮を作っていこう。
仮にAさんが1人でOODAループを100%運用していた場合、Bさんへ20%分の権限を与えるとしよう。そうすればAさんの手元には80%分しか残っていないので、別のことに時間を回せるようになる。一方、Bさんは20%分の権限を受け取り新たな業務に励めるので、スキルアップにつながる。このように、従業員を成長させていくことにつながるのだ。さらに、この行為は責任感を芽生えさせるきっかけにもなるので、信頼できる従業員には権限を渡させた方がいいだろう。
ここではOODAループを運用するときの注意点を見てみよう。
ルーティンワークなど普段の業務を改善する場合、臨機応変に対応すべき状況に巻き込まれる確率は低い。業務を見直したいと思ったとしても、頻繁に状況が変わるわけではない。意思決定には該当しないので、OODAループを使うのは厳しいだろう。
OODAループで設定する中身は、そのときの状況によって変わる。同じ状況になっているOODAループはほぼ存在しないので、過去の事例を元に運用するのは難しい。新たな取り組みをしたり、イレギュラー対応をするときに役立ったりするフレームワークなので気を付けよう。
OODAループでは、短時間で一通りの流れを回すため短期間で、修正がいくつも発生するかもしれない。修正まで手が回らないと、改善せずに放置してしまう恐れがある。それを防ぐには修正の時間を確保し、最後までやりきれる仕組みを作ることが大事だ。
OODAループを導入している企業はたくさんある。最後に、OODAループの導入企業例や実例を見てみよう。
富士通ではOODAループに沿ったビジネス展開をしてきた。たとえば2016年にはビジネスパートナーと事業を作ったり革命を起こしたりする計画(KIiA:Knowledge Integration in Action)を発表した。その他にも共創する場の設置や、OODAループに沿ってプログラムを進められるシステムの開発など、様々な場面で活用しているようだ。
以前はPDCAサイクルをモチーフに作り上げたユニ・チャーム独自の手法(=SAPS手法)を導入していた。しかし、その方法だと外的環境による変化に対応できない恐れがあった。そこでSAPS手法の進化系として、OODAループの取り組みを始めた。OODAループを導入してからは現場の声を従業員へ共有し、過去の経験やスキルを活かしながら働いてもらっているそうだ。従業員が自分で判断して動きやすくしたのが、ユニ・チャームの事例だ。
2013年のスーパーボウルは、停電によって30分間試合が中断された。現地の観客やテレビを見ていた方などは、試合が再開するのを待っていた。そんな中、試合会場にいた「オレオ」の関係者は停電中にも関わらず、画像付きでTwitterにて自社の宣伝をすることにした。すると1万件以上のリツイートがつき、多くのメディアで紹介された。急なトラブルに見舞われた中で、OODAループを上手く活用できた成功事例と言えるだろう。
OODAループの概要や事例などを中心に紹介した。その時々の状況を見ながら実行までのプロセスを進めていくフレームワークなので、短期間で計画から実行にまで移したいときに向いている。
ちなみにOODAループのメリットは以下の通りだ。
迅速に対応したり自主的に動く環境を作ったりする意味で、OODAループは役立つ。しかし、その一方デメリットも存在する。
OODAループ基礎研修を受けることでも学ぶことが可能だ。ぜひ検討してほしい。
OODAループを導入する場合は、円滑に運用できる体制を整えておかなければならない。また、PDCAサイクルとOODAループの用途は異なるので、一概にどちらが良いとは言えない。状況に応じて使い分けることが大事だ。ぜひOODAループの活用も検討しながら、従業員がスムーズに業務を進められる環境を作っていただきたいと思う。