職場や日常で「こんなことを言われたらどう対応すればいいの?」と頭を悩ませるシチュエーションは多い。
特に、矛盾したメッセージや指示を受けた時、人は混乱やフラストレーションを感じることがしばしばだ。これは、心理学の世界で「ダブルバインド」として知られる現象である。
本記事では、ダブルバインドの現象を詳しく解説する。理解し適切に対処することで、職場でのコミュニケーションの質を向上させる手助けとなるだろう。
目次
まずは基本の理解から始める。
ダブルバインドとは、相手から矛盾した2つのメッセージを受け取る状況を指す。一方で期待されることと、もう一方で伝えられることが矛盾しているため、どちらを選んでも問題が発生する可能性がある。
例えば、上司から「質問があれば何でも聞いて」と言われたものの、質問を投げかけると「自分で考えた方が成長できる」と返される。このような矛盾した指示は、職場の効率やチームの関係性、さらには自分の心の平穏までをも揺るがす可能性がある。
ダブルバインドは、単なるコミュニケーションのミスマッチ以上の問題を引き起こすことがある。
矛盾したメッセージを受け取ることで、自信喪失やストレス、不安を感じることがある。
ダブルバインドの結果、チーム内の信頼関係が崩れたり、仕事の効率が低下することも。
なお、ダブルバインドの意味や具体例ではこちらでも詳しく解説している。ぜひご覧いただきたい。
・ダブルバインドとは?意味や典型例を紹介【従業員間で円滑なコミュニケーションを築く】
例えば、上司から「質問があったら聞いて」との指示を受けたのに、質問したところ「自分で考えろ」といわれたとする。
このようなダブルバインドの状況は精神的なストレスや不安を生むものだ。そうした瞬間に、どのように自分の内面と向き合うべきかを紹介する。
この状況は一時的なもので、深呼吸をして、その場から少し離れるなどして自分の気持ちをリセットする。コーヒーブレイクや水分補給の時間を利用して、頭を冷やすことも効果的だ。
上司の発言や態度に必要以上に反応しないようにする。そのコメントは一時的なもので、自分の能力や価値とは別物だと認識することが重要だ。また、言った相手もうっかりしているだけという可能性もあるので、「人間だから、誰しも間違いはある」と受け入れることで楽になる可能性もある。
上司の意図や要求を明確に理解するために、どのようなアクションを取るべきか考える。再度質問するタイミングや方法、自分で解決するための情報収集など、具体的な手段を検討する。
ある程度時間が経った後で、感情を整理する時間を持つ。日記を書いたり、信頼できる同僚や友人に相談することで、自分の感情や考えを整理し、前向きな姿勢を取り戻すことができる。
このような対処法を持っておくことで、突然のダブルバインドにも動じず、冷静な判断と行動を取ることが可能になるでしょう。
それにより、より効果的なコミュニケーションや業務の進行が期待できます。
ダブルバインドの状況での適切な返答は、その場の雰囲気や上司の性格、あなたとの関係性によって選択する内容が変わることがある。以下に、とっさの返答の具体的な方法と例を示す。
例えばこのようなダブルバインドが起こったとする。
相手: 「レポートの作成を頼む。質問があったら聞いて」
~後日~
あなた: 「質問なのですが、今回のレポートにはグラフを挿れたほうがいいでしょうか?」
相手: 「それくらいのこと、自分で考えろ」
例: 「不明点は質問するよう指示を受けたので、自己判断で進めるよりお聞きするほうが良いかと思いまして。」
例: 「質問の内容やタイミングが不適切でしたら、具体的にアドバイスいただけますか?」
例:「了解しました。再度、自分で検討してみます。」
例:「ご指摘ありがとうございます。もう一度考えてみます。」
すぐに答えが出せない場合や、上司の意図を正確に掴むために、時間を稼ぐ返答も有効である。
例:「その点については、もう少し時間をいただければと思います。」
例:「確認してから、再度ご報告させていただきます。」
状況や上司の性格によって、これらの返答例を適切に使い分けることが重要です。
また、自分の感情や立場を保ちつつ、効果的なコミュニケーションをとることで、ダブルバインドの状況も乗り越えられるでしょう。
日常的にダブルバインドのような状況に遭遇する場合、相手とのコミュニケーションの基本的なアプローチを見直す必要がある。ここでは、予防策と対応策を提案する。
相手の言った内容の理解を確認するため、復唱する方法が効果的だ。相手の記憶にも定着しやすくなり、言葉に重みが生まれて自然と矛盾や誤解が減る。
相手: 「このレポート、来週の月曜日までに見直してほしい。」
あなた: 「了解しました。このレポートを来週の月曜日までに見直して提出します」
曖昧な表現を避け、具体的な期日や数値を用いてコミュニケーションすることで、明確な期待値を設定する。
相手: 「このタスク、早めに対応をお願い。」
あなた: 「分かりました。2日以内だとどうでしょうか?」
明確な確認を行い、双方の認識のずれを防ぐ。
相手: 「このA社のレポート作成、最優先でおねがい」
あなた: 「わかりました。B社のレポートも優先度が高いとのことでしたが、A社が終わってからB社に取り組んで問題ないですか?」
1on1の時間を定期的に持ち、上司の期待や意図を明確に理解する。この時間を利用して、ダブルバインドの状況についても話す。
例: 「最近、指示の受け取り方に迷うことが多く、一緒に改善の方向を探れたらと思います。」
上司とのコミュニケーションが難しい場合、人事部門や上司の上司などの第三者を介して、意見やフィードバックを求めることも一つの手段だ。
自分の精神的な健康を最優先にするための手段も考える。例えば、異動の希望を出す、人事に相談するなど、自分のキャリアや健康を守るための行動を取る。
「ダブルバインドの度が過ぎている」と感じるケースは、単なるコミュニケーションの不手際を超え、以下のような具体的な状況や影響が考えられる。
例えば、「このタスク、早めに対応をお願い。」と言われた際に、「分かりました。2日以内だとどうでしょうか?」と返したとする。そこで、もし相手が「"早め"といったら、"早め"だ」と言ってきたらどうか。しかも、それがあまりに高圧的で怒鳴るような言い方だったらどうだろうか。まだ本音で話せる関係性が築けていない相手だったら、どうだろうか。
日常のコミュニケーションのほとんどがダブルバインドであり、その結果、業務が滞ったり、適切な判断が困難になる。
指示された業務が矛盾していて、どちらの指示に従っても問題が生じる。これにより業務の遅延やミスが頻発する。
睡眠不足、過度なストレス、不安、うつ症状などの心身の不調が生じる。継続的なダブルバインドは、精神的な疲れやバーンアウトの原因となる場合もある。
チーム内の信頼関係が崩れ、協力的な作業が難しくなる。これにより、全体の生産性や効率が低下する可能性がある。
過度なダブルバインドによるストレスや混乱が原因で、退職を考えるようになる。
このような状況は、職場の環境や文化、上司の性格やマネジメントスキル、組織の風土などによって異なります。
しかし、これらの状況が続くと、個人だけでなく組織全体にも悪影響を及ぼす可能性があります。
ダブルバインドは、コミュニケーションの中でしばしば見られる現象である。日常の些細な場面で気づかない内に体験していることも多いが、それが業務の効率や心理的健康に影響を与えるとき、その対処法が求められる。
本コラムでは、ダブルバインドが起こる背景やその危険性、日常的な対処法から、その度が過ぎてしまった場合の取り組み方までを詳細に紹介した。重要なのは、ダブルバインドの状況をそのまま受け入れず、適切に対応して心の安定と業務のスムーズさを保つことだ。特に、過度なダブルバインドの状況下では、心身の健康に対するリスクも考慮する必要がある。そのような場面では、自分の感じる不快や困惑をちゃんと認識し、必要に応じて専門家や第三者への相談を考慮することも大切である。
また、人事担当者などがこのような状態が続いている部署を発見した場合、社内コミュニケーション研修やハラスメント研修などを受けさせることも良いだろう。該当者が管理職の場合、その同じ階層に受けさせるなどが、該当者のプライドを傷つけることがないため推奨される開催の方法だ。
最後に、ダブルバインドの問題は個人だけの問題ではなく、組織全体の問題として捉えることが重要だ。対話を重ね、明確なコミュニケーションを心掛けることで、より健全な職場環境を築くことが可能となるだろう。