リスキリング(Reskilling)とは、働き方の変化によって今後新たに発生する業務で必要なスキル習得のための教育をさします。
現代は「第4次産業革命」とも呼ばれる革新的な変化が起きています。AIなどの活用によってデジタル化・自動化が急速に進行中です。そのため、従来人が行っていた労働を、ロボットに任せるケースが増えると言われています。それに伴い、多くの労働者の業務が失われる一方、新たな多くの業務が発生します。
例えば、倉庫での肉体労働がロボットに置き換えられると、肉体労働をしていた従業員の業務はなくなります。ただ、同時にそのロボットを管理したり、ロボットのシステムを構築する業務が発生すると考えられます。これまで肉体労働をしていた従業員が急にロボットに関わる業務を行うのは簡単なはずはありません。一方で、デジタル化・自動化に対応できる高度な技術を持った人材は市場で不足しがちです。結果として、デジタル化・自動化に移行できない可能性があります。そこで登場するのがリスキリングです。リスキリングによって、これらの業務に関係するスキル・知識を既存の従業員に習得しておけば、新しく人を雇うことなく、既存の従業員で新しい業務を始めることができます。
リスキリングはこれからの時代に必要不可欠な要素となっており、メリットは沢山あります。
以下3つが代表的なメリットです。
新しいスキルを習得できるため、社内に新しいアイデアが生まれやすくなります。そのためリスキリングを上手く活用できれば、事業の陳腐化や時代の移り変わりによる経営悪化を防ぐことができます。
リスキリングで習得した内容をデジタル化、自動化に活かせば、業務の効率化が期待できます。結果として、新しい業務に時間を割けたり、従業員のワークライフバランスをとりやすくなります。
既存の従業員で新たな業務に取り組めるので、これまで既存人材が作り上げてきた組織独自の文化を守り、継承することができます。新しいものを取り入れるだけではなく、既存事業と折り合いをつけながらバランスよく融合させないと事業は上手く立ち上がりません。社内の文化を知っている従業員がリスキリングに取り組むのは、事業を流れに乗せるためにも有効な方法だと言えます。
ここまでリスキリングのメリットについて説明をしてきましたが、そもそもリスキリングは日本国内で2020年以前はあまり聞かれない言葉でした。それではなぜ近年話題となっているのでしょうか?
国内でリスキリングが話題になっている理由を3つ紹介します。
DXとは社内のデジタル化・自動化を進める取り組みのことです。コンピュータやAIなどのデジタルを活用しながら業務を行うことで、業務効率のアップや良質なサービスの提供などが見込めます。
新型コロナウイルスの流行によって、働き方は大きく変わりました。社内で働いていた方がテレワークに変わったり、顧客とのやり取りが対面からオンラインへ移行したり、既存の働き方では対応できないケースも増えています。それに伴い、新たなスキルを身につけなければならない状況になりました。
2020年に開催された世界経済(ダボス)会議では「2030年までに地球人口のうち10億人をリスキリングする」と発表されました。さらに経団連でも2020年に発表された「新成長戦略」の中で、リスキリングの必要性について触れられています。
リスキリングを導入するステップを5つに分けて解説します。
リスキリングでスキルを習得すると言っても、業務内容や企業の目標によって身につけるべき内容は違います。そのため、業績や事業内容などのデータを参考にして、リスキリングで何を習得すべきか決める必要があります。
リスキリングに取り組む従業員が、効率よくスキルを習得できるプログラムを考えることが大切です。
プログラムを参考にしてコンテンツを決めます。プログラミングやクラウドサービスの使い方などを学ぶことのできる講座やプログラムは世の中に沢山あります。これらを有効活用しましょう。ただし、全く新しいスキルであれば、社内で開発する必要があります。
プログラムとコンテンツを用意したら、各従業員に取り組ませます。あらかじめ時間を決めておくケースもあれば、好きな時間に取り組んでもらうケースもあります。
リスキリングによって習得したスキル・知識が「宝の持ち腐れ」にならないよう、実践で使ってもらうことが大切です。
従業員にリスキリングを行ってもらうときの、ポイントや注意点を紹介します。
リスキリングの良さを経営陣に伝えたり、自らが取り組んだりしてリスキリングへの賛同者を増やすことが大切です。賛同者を集めれば社内に協力体制ができます。
リスキリングに取り組む従業員の中には、途中でモチベーションが下がる人もいます。リスキリングは継続することで効果を発揮します。そのため、モチベーションが維持される仕組みを考えることが重要です。リスキリングに取り組みたくなる仕組みを設ければ、従業員も続けられるようになります。
たとえ質の良いコンテンツを利用したとしても、それが社内の課題解決に結びつくとは限りません。コンテンツ選びを間違えるとリスキリングの効果が期待できないため、社内のリスキリングにマッチするコンテンツを選ぶことが大事です。
ここからは実際の導入事例を3社紹介します。
アメリカにある通信業界大手の会社で、リスキリングの取り組みを比較的早く始めた企業だと言われています。リスキリングを導入したきっかけは、2000年代に起こった通信業界の革命に対応できる人材を増やそうとしたからです。
2008年に自社の従業員が持っているスキルを調査したところ従業員の約半数は、社内において陳腐化するスキルしか持っていないと判断されました。このままいくと通信業界の移り変わりに対応できないと感じたため、2013年に自社の従業員10万人を対象にリスキリングすることにしました。
10億ドルを投じて行われたビッグプロジェクトになりましたが、リスキリングに参加していない従業員と比べて、参加した従業員の昇進率は上がりました。さらに退職率を抑えることにも成功したため、恩恵を受けられた取り組みだと言えます。
2020年6月30日に、社外の人材(2500万人)に対してリスキリングする機会を設けることが発表されました。雇用を生み出したりスキルを習得させたりすることで、新型コロナウイルス感染による経済ダメージを抑えるのが狙いです。さらに他の団体と連携した活動にも取り組み、世界規模での活動となっています。
全社員に対してリスキリングが実施され、DXの基礎に関する教育が行われました。グループ会社の日立アカデミーでは「DXを推進する人材育成」や「DXリテラシー研修」と呼ばれるプログラムを用意しており、日立製作所の関係者以外も受講できるようにしています。
リスキリングでは「仕事を続けながら新しいスキルを継続的に身につけつつ、現状の業務から少しずつ離れ、最終的には新しい業務につく」ことに主軸が置かれています。一方、リスキルは「働く→学ぶ→働く」のサイクルをとり、新しく何かを学ぶことために一度キャリアを中断することが前提です。そのため、双方の意味は若干異なります。
現在属している環境の中で新しい知識をつけるという意味ではリスキリングとOJTは似ています。ただ、OJTを行うのは社内に今ある部署の今ある仕事を習得するためです。それに対し、リスキリングは社内に今ない、もしくは誰もしていない仕事を習得するためにあります。
しかしいずれも新たなスキルを身につけるという意味では大きな違いはないと言えます。