多くの企業で新入社員研修の時間が設けられている。最近では、採用した人材が成果を出せるようになって、その採用が初めて意味を持つという考え方が広がってきた。オンボーディングと呼ばれる入社時研修は、短期間での戦力化が実現できるという意味でも、今後さらに重要なものとなるだろう。
一方で、新入社員教育そのものが新入社員にとって役立っているケースもあれば、そうではないケースも存在する。これらの差が出る要因の1つは、新入社員教育の取り組み方だ。やり方を間違えてしまうと、むしろ新入社員の成長を妨げてしまう可能性さえある。
本記事では、新入社員教育を行う際のポイントや陥りやすい失敗例などを紹介する。
新入社員の教育担当者は、2つのことを意識しよう。
背景や必要性を伝える理由は、新入社員に教えた内容を定着してもらうためだ。場当たり的に業務内容のみ伝えても、背景や必要性を伝えないと新入社員は学んだ知識を結びつけることができない。
ちなみに背景や必要性を伝えるときは、誰にでも分かる言葉で話そう。横文字や専門用語を多用した場合、言っている内容は簡単なのに、難読な文章に聞こえてしまう恐れがあるからだ。
聞き馴染みのある言葉を使いながら、業務内容を全く知らない学生でも理解してもらえるように話そう。
新入社員教育後に振り返りの時間を持つことは、教育効果を図る上でも大事だ。どのような成果が出たかデータで見れば、その新入社員の性格や得意・不得意分野など、様々なことが分かる。振り返りの時間を設けるだけでも十分だが、以下のような方法で記録に残しておくことも良いだろう。
次に、新入社員を教育する担当者としてレクチャーや指導をしていく中で、押さえておきたいポイントを解説する。
研修のゴールを設定しておけば、逆算しながら指導を行える。
新入社員にとっても到達地点がわかるので、なぜその内容を学んでいるのか腹落ちがしやすくなる。また、教育担当者にとっても教育を進めるペース配分が分かるため、設定することのメリットは大きい。
ちなみにゴールを設定するときは、以下のことを意識しよう。
可視化できるものを設定する理由は、ゴールまでの道のりを分かりやすくするためだ。
たとえば「1週間でテキスト10ページの内容を覚える」というように数値化すれば、1日に進めるべき内容やペースが分かる。
逆に「テキストの内容を覚えられるだけ頑張る」というように、可視化できないゴールを設定すると、ゴールまでの距離感が分からなくなりスケジュールを乱す原因になってしまう。
新入社員教育を計画的に進めるためにも、可視化されたゴールを設定させることは大事だ。
新入社員でも達成可能なゴールがいい理由は、心が折れないようにするためだ。難易度が高すぎる目標を設定すると、行動している最中に気持ちが滅入ってしまう。
新入社員のメンタルを落ち込ませないためにも、新入社員でも達成できそうなゴールを設定させるべきだ。しかし簡単に達成できるゴールを設定すればいいかと言うと、それは違う。その場合も、やる気を失くしてしまう恐れがあるからだ。
例えば、ビジネス文書研修を受けることで、正しいビジネス文書のフォーマットを覚え、明日からの書類作成に活かす、程度であれば新入社員でも達成可能なゴールだ。一方で「独自の企画を立てる」までいってしまうと、まだ新入社員としては難しい部分がある。アイディア力や論理的思考により相手を納得させる内容にしなければならないためだ。
その年の新入社員のレベルや企業や組織として求めている能力とバランスを取ってゴールを設定することが良いだろう。頑張れば達成できる可能性がある所に、ゴールを設定させることが大事だ。
複数のゴールを設定すると、どのゴールに向かって進むべきか、分からなくなる恐れがある。その結果、新入社員は何をすべきか混乱して動けなくなり立ち止まってしまう。自発的な行動を止めないためにも、ポイントを絞ったゴールを設定することが大事だ。
目標を達成するためのスケジュールを立てておけば、その内容を参考にしながら行動できる。現状のペースが遅れていないか、確認するのに便利だ。ちなみにスケジュールを立てるときは、以下のことを意識しよう。
ゴールから逆算をしながらスケジュールの内容を決めよう。
たとえば60日後にゴールを達成する場合、30日後までに進捗度50%、15日後までに進捗度25%を達成させるというように細切れでのスケジュール設定が重要だ。
細かく目標設定できるため、短期・中期・長期の目標をそれぞれ管理する際に役立つだろう。
スケジュールを計画するときに余裕を持たせる理由は、急用が入っても身動きがとれるようにするためだ。
あえて何も予定が入っていない時間を意識的に設ければ、アクシデントに巻き込まれた際も対応できる。
スケジュールに空きを作っておけば、急用が入った際にも余裕を持って対処することができる。臨機応変に立ち回るためにも、多少のバッファーは設けるべきだ。
新入社員によって進むペースは異なる。さらに今までペースの速かった新入社員が、急にペースダウンすることもあるため、進捗をこまめに確認することは大事だ。確認を怠ると、新入社員研修のスケジュールや研修内容を変更せざるを得ない状況になるかもしれないため忘れてはならない。
進捗確認をするときは、新入社員に直接聞くケースもあれば、教育担当者やスタッフから新入社員に進捗状況を聞くケースもある。自社の環境に合わせながら、使い分けていただきたい。
仕事に対して、どのような取り組み方をすればいいかやって見せるのも覚えておこう。
仮に教育担当者が新入社員に「真剣に取り組んでください」と言っても、イメージを描けなければ実行に移すのは難しい。また、真剣の基準も人それぞれなので、具体的な行動に落とし込んで説明する必要がある。
新入社員に行動改善の具体的なイメージを持ってもらうためにも、仕事への取り組み方を実際に見せることは重要だ。
新入社員が研修を受けやすい環境を作るのも大事だ。
いくら新入社員研修で質の高いノウハウを提供するにしても、研修を受けづらい環境だと集中して研修を受講するのは難しい。その結果、研修での教育効果に悪影響が出てしまう。
ノウハウを吸収してもらって仕事で活かしてもらうためにも、受講しやすい環境を設けることは大事だ。
最後に新入社員教育で陥りやすい失敗例を紹介する。
仕事の目的や意味について教えないと、新入社員が学んだ知識を体系的に把握することができない。結果として、点での知識で終わってしまい、汎用性のある状態まで昇華できなくなってしまう。
単に業務内容だけ伝えても、新入社員側は「なぜこの業務をしているのか?」「他の業務とどういった関連性があるのか?」など、疑問を抱えてしまう。結果、教育担当者に対して不信感を抱くことになりかねない。
その状況を回避する意味でも、業務内容だけではなく仕事の目的や意味について教えるべきだ。
新入社員ができてない部分ばかり指摘するのも、典型的な失敗例だ。
ネガティブなフィードバックばかりすると、新入社員のやる気を削ぐことにつながる。
その結果「自分にはこの仕事が向いていないかもしれない」「別の会社へ転職しようかな」などの気持ちが生まれる原因になる。
新入社員にイキイキと働いてもらうためにも、褒めることを忘れてはいけない。新入社員のやる気を下げないように立ち振る舞えるかが重要だ。
教育担当者が個人的な体験を押し付けるのも、よくある失敗例だ。
上記のように過去の経験談を元に、新入社員へ話をする教育担当者もいる。過去の経験談を語りたくなる気持ちはわかるが、必ずしも役立つとは限らない。なぜなら教育担当者と新入社員では、時代背景や生活環境が異なるからだ。
共有する際は、あくまで参考例の一つという形に留めておくべきだ。
他の業務に時間を割くあまり、新入社員教育が疎かになってしまう失敗例もある。
自分の業務と新入社員教育の時間配分を間違えてしまうと、上記の状況に陥る。
結果、新入社員は満足した教育を受けられなくなってしまう。新入社員だけで、自身のスキルを上げるのは難しい。
スキル向上をサポートするためにも、教育担当者は責任持って新入社員の面倒を見た方がいいだろう。
新入社員教育で、内容を無理やり詰め込もうとして失敗する例もある。
教育担当者の中には、短時間の中で頭の中がパンクしそうになるほど、内容をインプットさせる場合がある。しかし、たくさんの内容を教えても全てを覚えるのは不可能だ。
新入社員によっては、キャパオーバーしてしまい、脳内が混乱してしまうケースもある。
よって、無理やり大量の内容を詰め込もうとさせるのは避けるべきだ。
効果的な新入社員教育を実施するためには、いくつもの内容に気を付けながら進めていくことが大事だ。新入社員の戦力を上げる意味でも、新入社員教育の進め方は慎重に決めた方がいいだろう。
ちなみに新入社員教育を行うときは、以下のことに気を付けるべきだ。
なお、リスキルのように新入社員研修を社外の研修会社へ依頼することも可能だ。カリキュラムなど参考にしてほしい。
新入社員に戦力として動いてもらうためにも、研修を受けやすい環境を整えて、効率的に進めていただければと思う。