「エンパワーメント」とは社会や組織のなかで、個人それぞれが存分に、力を発揮できること、さらに企業や周りに、大きなプラス影響を与えるようになることである。自分と、自分を取り巻く環境をコントロールでき、成長を促す現象のことを言う。
ビジネスでのエンパワーメントは、まず能力を発揮できるような環境を企業が作ることから始まる。「エンパワーメント」という単語の本質的な意味は「権力や力を与えること」という意味になるが、ビジネスで用いられる場合は、「自律性促進」「権限移譲」「能力開花」などといった意味合いが大きくなる。企業がエンパワーメントを行うとどうなるか?という点とその効果をまとめてみたので、見ていこう。
エンパワーメントの意味を簡単にいうと「権力や能力をあたえる」という意味になる。
企業で使う場合は、個人や集団が本来持っている潜在能力を引き出し、役立てることを意味しており、「権限委譲」や「能力開花」ということにとらえられる。社員がこのように自主的に研究や没頭する環境を与えることで、組織における自律性の向上、社員が持っている能力の発揮、意思決定の迅速化が図れるため、結果的に企業に良い利益をもたらすものである。
エンパワーメントとは「人間は一人ひとりが本来素晴らしい潜在能力を有している」という前提があり、その能力をいかんなく発揮できるようにサポートするのは企業の腕次第ということになる。
先のことを踏まえて、企業でエンパワーメントを生かすメリットを3つにまとめてみた。
意思決定の迅速化は特に企業にとっても大事なことである。プロジェクトそのものがスピードをもって他社より先に社会に認知されることはとても重要なことだ。意思決定の迅速化は社員の自主性によって、プロセスからすぐに直結で社員が自ら決断を下すことも可能となるため、上司やその先に何度も決断のためのお伺いを立てる時間が短縮されるのだ。
縦社会のハンコ文化やサイン、手続きだけのためにとっておきのプロジェクトが遅れてしまっては、時間とお金が無駄遣いされるのと同じことだ。ビジネスはスピードとタイミングがすべてであるから、エンパワーメントによってある程度の意思決定に至るまでの時間が短縮することは極めて有効なことといえる。
スピードが上がった結果として企業の機動力がアップしたり、顧客満足度向上につながることとなる。また社員や部下にとっては自ら意思決定をする機会が増えるため、責任感が増し、人材育成のための決定の結果そのものを、身をもって受け止めることで、さらに向上するという社員育成力アップにもつながっている。これらを重ねることで、自分の行動に責任が持てる企業人として成長することもできる。
社員一人ひとりに意思決定をする機会を増やすと、責任感を持つようになりそれまで感じていた一方的な上司への不満も少なくなる。そうすると、企業活動に対する理解や興味が出てくるのだ。仕事における価値観の浸透やミッションの加速も期待できるため、本来の能力も思う存分開花することにつながるだろう。
エンパワーメントの基本柱は企業で取り入れる際も重要なので、チェックしていこう。
これらが企業でエンパワーメント環境を作るための基本である。
エンパワーメントを取り入れる企業が目指すのは、従業員の本来の力を引き出し、活用し、生産性や顧客、また従業員本人の士気を高めることにある。この結果、スピードと利益が後からついてくるというものだ。このためには正確な情報共有がなければ、何も始まらない。
例えば、業務における伝達事項、プロジェクトの概要、目的など個人でもチームで行うにしても情報があいまいでは何もできないのである。このために目的のためのゴールを明確に設定するのも当然の基本となる。なぜなら、明確な目標を設定してからでなければ自律性に向かっていけないからだ。
自律性に向かうためには、自律性を促す動機付けをしていけばよい。
動機付けはどのようにするか?ということだが簡単だ。
会社内で目標達成のための行動の自由を認め、エンパワーメント推進を宣言しよう。
下記に動機づけの方法紹介する。
社員全体にエンパワーメント推進という目標が周知できたら、できるだけ早いうちに、エンパワーメント導入に関する研修や勉強会を開くのも動機づけになる。従業員の率直な意見を述べることで、対象従業員やチーム、その他の従業員の不安を解消するのだ。ディスカッションや勉強会を活用し、エンパワーメントが従業員にどのようなメリットを生むのかを社員全体に理解させよう。
メリットを伝えるには、社員に実際の成功企業例なども伝えるとわかりやすいだろう。そしてエンパワーメントの中で権限委譲や権限付与を行う。それまで企業内の一部の人しか知らなかったような情報をある程度公開する。(実情に応じて情報の範囲は人事部で決定することはあるだろう)情報公開の意義は、企業が従業員に対し、信頼されているという充足感を与えることで頑張ろうという自主的な動機付けにつなげることもできるからだ。
エンパワーメントでは裁量権を与える仕事の範囲を定め、実際に任せることにある。ただし注意すべきは、「どこからどこまでがその人の仕事であるか」を明確にしておくことが大切だ。
エンパワーメントを実践するにあたって企業として準備することを上記のようにまとめてみた。
まず会社的にエンパワーメントを実践することの許可や宣言をし、社員全体で取り組むべきことであることを周知する。目的達成のための行動や権限委譲を許可することで、モチベーションや自律性を促す環境もできてくる。しかし、何かあったときのサポート体制や相談窓口も同時に設置しておくことで、常に会社もサポートをしているという環境を作っておくことも大事になる。
従業員が成長する過程を見守ること、会社として応援する体制を整えていくことが従業員に良い仕事やアイデアをもたらすこととなる。しかし間違えてはならないことは、権限を与えた結果、企業が損害などを被った場合、その責任は権限を付与した上司にあるという考え方が一般的であるため、管理職は責任まで丸投げしないようにすることだ。あくまで見守り最後は自分が責任とるから、やってみろという体制が大事なのである。エンパワーメントは、何よりも責任者や経営者のあきらめない姿勢で協力することが必要なのだ。
プロジェクトのなかで達成度と結果のチェックも忘れてはならない。常に従業員から報告、連絡、相談を受けられる管理職が必要だ。誰でも最初は失敗する、失敗を恐れない、どんどんしていいという姿勢で取り組ませ、達成度と結果によって次の目標を立てていけばよい。定期的な面談なども取りいれていこう。
企業での活用例をここでは見てみよう。
顧客満足評価が高いホテルとして知られているリッツ・カールトンもエンパワーメント実施企業の一つである。お客様にとって一番良いサービスの方法を考え、個々の従業員が迷うことなく最善の方法を選択することを目的とするエンパワーメントとして設定されている。最高のサービスが提供され続けているのはエンパワーメントのおかげかもしれない。具体的に下記のような取り組みを行っているという。
①. 上司の判断を仰がずに自分の判断で行動する。
②. セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れる。
③. 1日2000ドル(約20万円)までの決裁権を与える。
カフェでおなじみのスターバックスコーヒージャパンもエンパワーメントを実施している。
“ミッションを徹底教育した後は、権限委譲(エンパワーメント)をして、その実現のための自主性と創造性を発揮してもらい、接客の核心に触れることが目的”とCEOは述べている。接客に関してはたった1つのことをマニュアルとしていて、「お客様が何をしてほしいかを考えてサービスする」という内容で自主性をもって行動させているという。個人個人が最善のサービスが何なのかを自ら考えてを実践することを見出す目的としてエンパワーメントが活用されている。
そのほかエンパワーメントを行っている企業は多い。サントリー、リクルート、京セラ、ヤマト運輸などが独自のエンパワーメントを実施している。どれも業績が好調な企業ばかりように感じる。
エンパワーメントをユーザーに活用するやり方もあるので紹介しておこう。
ユーザーの要求に十分に応じているかどうか不明なまま製品開発を進める、またはサービスを提供することはあってはならないことである。そこで、ユーザーへの要求、企画権限を委譲して製品開発やサービスのプロジェクトを行うことがユーザーエンパワーメントである。
直接のアイデアをユーザーから募集したり、投票してもらったり、関連する座談会、モニターなどを通してユーザーが欲しいものや改善してほしいサービスなどの需要が基盤となり供給される仕組みを作っていく。無駄がなく合理的な形といえる。ユーザーエンパワーメントで重要なのは、手法の設計と収集データの解析力である。創造性効果だけでなく、顧客に製品アイデアやコンセプトを創ってもらう「創造」部分と調査力のバランスが具体的な案となるので大切になってくるのだ。
エンパワーメントは従業員にある程度の裁量を持たせることにより、責任ある行動やトップへのお伺いなどを省くことができ、スピード感を持ったビジネス展開が期待できる。また社員の能力を高めるための経験も多く取り入れることができるので、良い社員が長く定着することにもつながる。特に自分で何かを成し遂げる、という満足感も得られるため新卒や中途採用の際に研修で取り入れると社員のモチベーションも変わってくることだろう。
管理職研修以外にも、店長研修なども有用だ。ぜひ検討してほしい。