現在、注目を集める「ダイバーシティ」。働き方改革のひとつとしても推進されている一方で、そもそもどういったものなのかわからない方もまだ多いのではないだろうか。ダイバーシティを推進すると多様な人材がいる組織となり、多様なアイデアや発想、スキルや経験などが存在し、企業にとってプラスのイノベーションを生み出すことがわかってきている。
そこで今回は、ダイバーシティの概要や推進するための準備などをご紹介する。
目次
ダイバーシティ(Diversity)は、直訳すると多様性を意味し、集団において年齢、性別、人種、宗教などさまざまな人が集まった状態のことを指す。本来は、人権問題や雇用機会の均等などを説明する時に用いられていた。今では多様な人材を登用することで、組織の競争力を高めるひとつの戦略として認知されている。
もともとアメリカで生まれたダイバーシティという定義は多様な人材がいる組織には、多様なアイディアや発想、スキルや経験などが存在するということが当たり前になっていることから始まった。それらは企業にとってプラスのイノベーションを生み出すとされているため、ダイバーシティーが注目されるようになった。また、ダイバーシティが注目されるようになった背景を下記にいくつか紹介する。
グローバル化は企業にとって対応は欠かせないだろう。企業の海外進出が、インバウンド需要など世界中の多様な顧客ニーズに合わせたサービスが今や当たり前になっている。また新たな市場のほかにも従業員の多様化を行うことで世界文化の企業を目指すことができ、語学力や文化を多様に広げることができるはずなのだ。
働き方の多様化は国内の働き方にも大きく影響する。終身雇用がなくなり、価値観も多様化する今ではワークライフバランス、帰属意識の希薄化などより、プライベートを基本として働きやすい職場が求められている。
また女性従業員に対するきちんとした会社の規則や管理職適用、フレックスタイムやテレワークなども時代に合ったインフラを取り入れる企業でなければ世の中に対処できなくなるため、ダイバーシティが推進されるのは自然な流れとなる。
少子高齢化により労働力人口減少と労働力人口構造が変わっている。人手不足が深刻化すると従業員が確保できなくなる危険もあるため、ダイバーシティによる従業員多様化が企業の運営にも不可欠になっているからだ。働き手がいなくなれば会社も成り立たなくなる。
消費の多様化もダイバーシティがもたらしたものである。個人の消費志向は多様化しており、様々な国のものをネットなどでも購入できるようになった。また旅行などのサービスもしかりであるし、語学に関してもオンラインで全世界の言葉を学ぶことも可能だ。
多様化した消費者に対応する商品やサービスを開発していくためには、多様性のある企業が圧倒的に有利となる。
経済産業省によると、「ダイバーシティを取り入れる経営」とは、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供する。」、「イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」ができるとされている。ダイバーシティを推進することは、企業側にも従業員にもさまざまなメリットがある。
優秀な人材の確保ができるのは言うまでもない。女性、中高年、障がい者、外国人などに拘らず、採用することは企業にとってもメリットが大きい。
優秀人材はどこにでも隠れており、狭い了見から選ぼうとすれば同じ大学や学歴や派閥だけになってしまい会社の発展を妨げることにもなりかねない。ひとくくりに断定せず多様性のある人材から選べば、いままでできなかったことができるようになるなどプラス面が企業において多く生じる。
ダイバーシティ経営により、多様な従業員に合わせた職場づくりをすることでグローバル化でき、従業員の満足度が向上し、企業価値が高まる。またこの企業に入りたい人も増えてくるので業績が向上し、好循環が生まれる。今や企業力は国際的な力をなくしては語れない部分がある。むしろ日本全体がそうなっているといっても過言ではないが、いまだに多様化をためらう企業も多いのは外国の大学と日本の大学の学生を見てもよくわかる。
海外の学生を多く採用したり、言語の公用語を英語にするなどに力を入れている企業もあるがそれにはまず受け皿がしっかりしていなければならない。ダイバーシティの環境準備をすることが企業力の強化につながるのであれば必要に応じて企業もルールを変えていかなければいけない。
企業への心理的安全性が高まることで多様な人材がアイディアを出しやすくなる。人種や性別に関係なく、受け入れてもらえる場所に対して安心感や信頼感が増すのでますます良いアイディアも生まれていく。心理的安全性は成功するチームには欠かせない要素なので企業にとっての職場環境改善など良いことだらけのダイバーシティ経営となる。
特性を踏まえた業務分担ができるので、アイディア面は多様な人からの刺激による従業員同士の成長であるから、刺激を受けながらいろいろなアイディアを出し合う場が増えるのは当然、企業にはプラスとなる。
ダイバーシティ推進に必要なことは次の通りとなっている。従業員に対する評価や研修を強化しなくては導入はできない。 会社側は多様性で起こりえる文化の違いやネガティブな状況をできるだけ解消することが必要となる。
その多様性を迎えるにあたっての必要準備を項目別にみていこう。
ダイバーシティ研修の実施なども効果的だ。
属性の異なる人材が多く配属される場合は、摩擦も起こりやすくなる。職場ではダイバーシティのリテラシーを高めてからでないと導入ができない。社員が納得のいくように正しくダイバーシティを理解するようにしなければならないからEラーニングをはじめとする、様々な研修を取り入れていく。
従業員のなかには、属性の異なる人材との協働に、ストレスや不満を感じる人もいるだろう。ダイバーシティ推進を企業や従業員が前向きに捉えることができるように、今ある評価制度も見直す準備が必要なことも出てくる。人種や国籍や男女差にとらわれないように、数字だけにとらわれない評価項目が必要だ。
偏見や先入観を排除して、個人面談で一人一人に対する理解を深める見直しも大事になる。従業員のなかには、属性の異なる人材との協働に、ストレスや不満を感じる人もいるだろう。ダイバーシティ推進を企業や従業員が前向きに捉えることができるように、「なぜダイバーシティを推進するのか」目的を踏まえ、今ある評価制度も見直す準備が必要なことも出てくる。例えば面談をまめに入れて部分的に優れたところを人事として見出すようにしていく、数字だけにとらわれない評価が必要だ。偏見や先入観を排除して、個人面談で一人一人に対する理解を深める見直しも大事になる。
職場でのダイバーシティ経営は、「意識と実践」によって成り立つ。全員がダイバーシティを正しく理解し、適切に行動できるようにダイバーシティを推進する会社の目的などを踏まえた説明会を行う。社員全体が理解していなければ何を会社が求めてやろうとしているのかがわからないことになる。
多様な人材を取り入れるには働き方や労働環境も再度見直す必要がある。働き方や勤務地を柔軟にし、労働の環境整備を発展させることによってダイバーシティを推進していく。
育児休業・介護休業の活用、フレックスタイム制やリモートワーク、サテライトオフィス、通勤負担の軽減、といった「ワークライフバランスの充実」を意識した環境を整える。
「ダイバーシティに取り組み始めた時期」からすぐに結果が出るとは限らない。むしろ初めの5年以内はあまり効果が感じられないことが多い。ダイバーシティは、長期的な取り組みで成果を実感できるものであるから急いで結果を求めるようなことをしない点に人事も気を付けていきたい。
それではダイバーシティへの取り組み事例を見てみよう。
三重県にある建設会社では、総従業員48人のうち、女性6人、外国人9人、チャレンジド(障がい者)1人、高齢者4人。人手不足の極まる建設業界で旧来型の労働慣行を打破し、個人の能力開発と労務管理を徹底するダイバーシティ経営を実現することができた。
目的は社員の幸せの実現と会社存続に向けた人材育成及び社員が働き続けられる環境整備を目指すためであった。現場監督による労務管理を徹底、人材配置データの一元管理を実現や多能工化を目指していた。また、社員のスキルアップを支援することで、社員の働きやすさを追求し、業界では珍しい「第2、第4土曜日の完全休業」をトップダウンで敢行などを取り入れた。取り組みが奏功し、同社の業績は工事粗利益率が3〜4倍に高まっていった。現在、ICTによる建設生産システム全体の生産性向上を目指す取り組みを行い、さらなる業務の高度化を図っている。
東京にあるDIY・エクステリア商材の製造販売会社では、総従業員87人のうち、女性62人、外国人3人、高齢者2人第二創業のインテリア用品SPA(製造小売業)で急成長を達成。経営課題はインテリア・DIY用品のSPAへと事業転換、新たな市場創出を目的としていた。
企業理念と中核的価値観の制定及び経営トップとの密な意識共有を基に業務の方向性を明確化し、ビジネスネームの使用や多様なITツールの活用を行って社内コミュニケーションを密にして行くことで、社員のニーズに応じた勤務環境の改善を行い、多様な社員の働きやすさと働きがいを実現した。ダイバーシティ経営による成果は売上10倍、新しい製品アイディアも多数生まれている。社員数も年々増加し離職率の平均も3年間で激減している。インターネットでインテリア用品などを購入する消費者も増加しているため、同社の新しいアイデアを次々に形にしていく製品がオンラインでも購入できるようになるとさらに売り上げが上がっているようだ。
厚生労働省もダイバーシティ推進のための企業を表彰する制度も設けている。これらの実践済みの企業はそのような受賞にもかなり近い位置にあるといえよう。
働き方の多様化により、従業員が性別や国籍、障害にとらわれない企業が多く出てくるのは日本全体にとっても利益が上がることにつながる。まずはダイバーシティとして今まで古い観念であったルールを正していくことで、新しい職場環境や理解を生み出していく必要がある。