「コンピテンシー」とは、優れた成果を出し続けるハイパフォーマンス人材の「行動特性」のことだ。
ハイパフォーマンス人材の行動特性が社内に浸透すれば、会社の業績向上が期待できるため、コンピテンシーを活用しようとする会社が増えてきた。さらに、その行動特性を「コンピテンシー評価」としてうまく活用すれば、優秀な人材の採用や育成にもつながる。
今回は、採用・育成に携わる人事担当者向けに、コンピテンシーの意味や、コンピテンシー評価と能力評価との違いを紹介する。
まずは、定義から解説していく。
Competencyという英語の意味は、能力、実力、有能さ、適性、技能、スキルなど様々だ。
昨今のビジネスにおいては「優れた成果を出す個人の行動特性」を、コンピテンシーと定義している。個人売上のように定量的な結果だけなく、結果につながった具体的な行動であるため、単純に数値化できないところがある。
「コア・コンピタンス(core competence)」は、他社が真似できない「企業の中核となる能力」を意味する言葉だ。90年代発刊の、G・ハメルとC・K・プラハラードによる著書「コア・コンピタンス経営」が元となる、「会社の強み」とも言える概念だ。
「顧客に利益をもたらす」「競合に真似されにくい」「複数の市場・商品にアプローチ可能」、という3つの条件を満たす強みが、コア・コンピタンスと定義されている。コア・コンピタンスは「組織」の能力を示す言葉であるのに対し、コンピテンシーは「個人」の能力を示す。
「スキル」とは、学習や訓練によって習得した専門的技術のことだ。一方、コンピテンシーはその技術を活用する力を指す。
例えば、ITスキルや語学スキルを、習得技術だとすると、コンピテンシーは、スキルを「いかに活用するか」を示している。成果を出すために必要な技術を持っていても、それらを活用する行動がともなっていなければ、成果に結びつく可能性は低い。
「アビリティ(ability)」という英語は、才能や手腕を意味し、 ビジネスで使われる場合は主に「能力」のことだ。スキルと同様に、ビジネスの現場で必要な力を指すが、「やる気」や「朗らかさ」なども含む、広い概念の言葉と言えるだろう。スキルはトレーニングにより習得できる高度な技術だが、対してアビリティは「すでに備わっている能力」と言える。コンピテンシーとの違いは、スキルの場合と同じく、能力を活用するための行動がともなっているかどうかの違いだ。
コンピテンシーが広く知られるようになったきっかけは、1970年代にハーバード大学のマクレランド教授が行った調査だ。
アメリカ国務省職員の選考において「採用時の学歴や知能テストの成績」と「その後の実績」は相関関係が無いことが、調査によって判明したのだ。
さらに優秀な職員は「対人感受性が強い」「他人に前向きな姿勢」「政治的ネットワーク構築が早い」など共通の行動特性が見られた。
その行動特性をビジネスシーンで活用し、社員の生産性向上に活用しようとする動きこそ、コンピテンシーが注目される理由だ、
コンピテンシーは、「激変するビジネス環境のなかでも優秀な成果を出す人材」を育成する手法として、再注目されている。
近年の日本は少子高齢化による労働人口の減少するなか、会社が生き残っていくためには、さらに社員の生産性が向上しなければならない。
より成果主義に移行する会社が増えているが、成果を出すための行動や思考などを共有して優秀人材を育てるのが狙いだ。
優秀な成果を出す人材が適正に評価されることで、社員の仕事の質やモラルも高めることもできる。
受動行動とは、上司や先輩からの指示を出されてから行動する、という受け身の行動姿勢のことだ。
率先して動く、アイデアを出す、情報収集をするという行動はなく、上司に指示を出されるまで行動をおこさない指示を待っている状態だ。
「何をすべきか分からない」「そもそも考えようとしない」などの特徴があり、コンピテンシーがかなり低い人材と言えるだろう。
ただし、過去の経験から失敗を極度に恐れていて、勇気と自信がなくて行動に移せない場合も考えられる。
通常行動の社員は、自身に与えられた最低限の業務は、指示を出される前に自主的にこなすことができる。
自主的に意見を出すなど、業務の改善を行うことはないが、自身の仕事に対して「ミスなく確実にやり遂げる」という意識は高い。
ただ、仕事の多くはチームワークで成り立っているため、「我関せず」という姿勢を貫こうとすると、周囲からの評価は当然低い。
仕事が協働作業で成立する以上は、周囲の状況を把握しながら業務をすすめる、という姿勢がなければ、コンピテンシーが高いとは言えない。
能動行動は「主体行動」とも言い換えられ、明確な目的や判断に基づき主体的に行動することを指す。
自身で目的を設定して、それに向かって能動的に動ける通常のコンピテンシーを持ち合わせている社員の特性だ。
例えば任された業務で、より良い成果をおさめるために、情報収集やスキルアップのための学習をするなど、準備を怠らない。
同僚や上司からのアドバイスを素直に受け入れることができ、決められたルールの中でも積極的に工夫できる人は、コンピテンシーが備わっている。
創造行動は、自ら工夫をして現状の状況を変化させようという行動を指す。
問題解決の手法を創造する能力であり、チームメンバーや他の部署の社員を巻き込みながら、独自の工夫を加えて状況を変化させることだ。
例えば、社内で新たなプロジェクトが始まった際に、自主的にアイデアを提出、部署間の連携を提案する、マニュアルの作成など積極的に行動する。
コンピテンシーが高い人は、決められたルール以外の方法も取り入れ、生産性の向上や業務効率化のアイデアを、会社全体に浸透させる力がある。
「パラダイム」とは、その時代の規範となるような思想や価値観、という意味で使われる言葉であり、パラダイム転換とは、今まで常識とされていたしくみをガラリと一新してしまう独創的なアイデアを実現することを指す。
例えば、「テクノロジーツールを駆使して労働時間を半分にし、全社員の休みを増やす」といった大きな改革を遂行できる人だ。パラダイム転換行動によって、周囲の価値観を変えてしまうほどの成果が出せる人は、コンピテンシーレベルが非常に高い人材ということになる。
従来の終身雇用や年功序列が機能している時代では、成果や業績よりも役職や勤続年数が評価されることが多かった。
また現状も、評価基準が不明瞭で、評価側の主観が入りやすい評価制度を採用している会社も多いため、公平性の低さが問題になっているところがある。
コンピテンシー評価は、成果や業績につながった行動を重視し、あらかじめ設定した行動特性に基づく明確な評価項目に沿って評価する。
行動評価の基準を明確にし、評価項目を適切に設定していれば、評価者が異なっても、統一的で公平性が高い人事評価が可能だ。
コンピテンシー評価を企業が導入するメリットは、社員に企業の具体的な経営ビジョンを社員に提示しやすくなることだ。
会社が理想とする社員像をコンピテンシー評価の項目に沿って設定すると、会社の目標と社員の行動が連動するからだ。
抽象的になりがちな経営ビジョンだが、コンピテンシーの評価基準を通じて行動に落とし込むと、社員の一貫した行動によって会社の方向性が定まる。
コンピテンシーを明確に設定して社員に周知することは、日々の業務の中で経営ビジョンを明確にすることにつながるのだ。
コンピテンシー評価を導入することは、成果を上げるための行動特性が明確になるため、ハイパフォーマンス人材を育成しやすい。
中長期的な視点で人材育成を考える際も、コンピテンシーが可視化されていれば、育成すべき人材の方向性が明確なので効率的な育成が可能だ。
たとえば「問題解決」「リーダーシップ」という特性が成果に重要であるならば、そのコンピテンシーを強化する育成プログラムを作成する。
加えて、職種ごとにコンピテンシーモデルを設定して評価制度を整えれば、専門性が高い即戦力人材を育成しやすくなる。
比較的新しい評価制度である「コンピテンシー評価」は、成果につながるための「行動」を評価基準としている。
対して従来の「能力評価」は、知識や技能、経験、資格など、業務遂行上必要なスキルに加え、年齢や勤続年数などの総合的な「能力」を考慮して評価する方法だ。
コンピテンシー評価基準が「目標達成のために起こした行動」であるのに対し、能力評価基準は業務に必要な「能力を保有していること」が評価される。
つまり「成果と直結しているのがコンピテンシー評価」で、「成果と直結していないのが能力評価」といえるだろう。
コンピテンシー評価は「成果に至るまでの行動」、能力評価は「業務に必要なスキルや知識」をもとに評価項目を作成する。
コンピテンシー評価における評価項目は「プレゼンの準備が滞りなくできる」「業務を効率的に構築できる」「人の話を傾聴できる」など具体的だ。
対して、能力評価における評価項目は「企画力」「協調性」「責任感」のように抽象的だが、個人の特性を把握しやすく、適材適所の人員配置に活用しやすい。
評価項目は、客観的な評価を行ううえで重要な指標だが、ひとつの手法に偏ると変化に柔軟に対応できないため、「コンピテンシー評価」と「能力評価」を組み合わせる必要がある。
コンピテンシー評価と能力評価は、どちらも人材育成にも有効な評価制度だが、育成したい人材によって効果が違う。
コンピテンシー評価は、職種・役割ごとに適切なトレーニングや開発プログラムを設計する
ことができるため短期的に「スペシャリスト=専門職」の育成に向いている
能力評価は、業務に関する幅広い知見や、多面的な視野で現場全体を把握する力などを評価するため、長期的に「ゼネラリスト=管理職」を育成する場合に効果的だ。
コンピテンシー評価と能力評価は、それぞれ一長一短あるため、育てたい人材によって、それぞれの指標を使い分けて活用することが重要だ
コンピテンシーについて詳しく解説してきた。企業や組織の中には、評価方法としてすでに取り入れている場合も多い。改めて理解をすることで公平な評価につなげてほしい。こちらの記事でも詳しく解説されているので、あわせて読んでみてほしい。
→コンピテンシー評価~人事制度構築と労務管理対策の重本コンサルティングオフィス
なお、人事評価制度研修などで、より詳しく理解することができる。本記事を作成したリスキルにて提供している研修だ。ぜひ参考にしてほしい。