ビジネスシーンで忙しく働き続ける方にとって、ストレスによって心や身体がつらい状態になるということは残念ながらよく発生してしまうことだ。健康的に働き続ける上で、メンタルヘルスや自身のストレス管理について理解を深めることは有用と言えるだろう。
本記事では、メンタルヘルスの意味や心の健康状態を保つために必要な予防方法を解説していく。自身の心や身体の変化に気づき、上司である方の場合は部下の変化にも気づいていきながら、対応できるスキルを身に付けてほしい。
目次
メンタルヘルスとは、心の健康状態を意味する言葉だ。
一方で、心の健康が維持されない状態になることをメンタルヘルス不調と言う。
心の不調は、身体不調に比べて自身も周囲も気づきづらい。目に見えない部分が多いためだ。
心も身体も健康にいきいきと働くために、メンタルヘルスを良好に維持することと、メンタル不調に陥ったときのサインを理解しておくことが重要だ。
メンタルヘルス不調の人には、いくつかのサインが見られる。ここでは、具体的にどのようなサインが見られるか解説していく。
欠勤・早退・遅刻が増えたり、理由もなくシフトを急激に減らしたりなど、出退勤の状況が変わってきた場合は、メンタルヘルス不調の場合がある。
仕事の成果が下がったり、タスクにかける時間が無駄に長くなったりなど、社内でのパフォーマンスが悪くなってきた場合も、メンタルヘルス不調のサインかもしれない。
急に社員と話さなくなったり、ネガティブな発言や攻撃的な発言が増えたりした場合などもサインだと思って良いだろう。
靴の後ろを踏みながら歩いたり、寝癖を直さなくなったり、シャツの襟がヨレヨレになったりなど、身だしなみに気を遣わなくなった場合も、メンタルヘルス不調の恐れがある。
風邪をひいたり、やる気が出なかったりなど、体調不良が増えた場合もメンタルヘルス不調に陥っている恐れがある。症状が進むと疲労感がとれず、働けなくなっていく。
不安な気持ちを抱えていたり、怒りや興奮が増えたりしているのも、メンタルヘルス不調の可能性がある。自分が抱えているストレスに対処できなくなった結果、症状が現れているかもしれない。日頃から部下を観察することで、変化に気づきやすくなるだろう。
メンタルヘルス不調は、3つの段階で予防することが定石だ。一次予防、二次予防、三次予防に分けて解説していく。
一次予防とは、社員がメンタルヘルス不調にならないよう予防することだ。
「セルフケア」「職場環境の改善」をメインとして行っていく。
セルフケアとは自身の心や身体の健康を維持することだ。
自らのストレスや心や体調の変化に気づき、適切な休養や無理をしすぎないようにすることだけでも、メンタルヘルスケア不調を予防することができる。
しかし、「自分で自分の変化に気づく」ということほど難しいものはない。そのため、心と身体が出すサインを理解することが重要だ。
以下のような心と身体の変化があった場合は「少し疲れているサインかも」と思うようにするなど、自分自身にルール付けをしてみるのもよいだろう。
・心のサイン:イライラが続く、怒りっぽくなる、なんとなく悲しい、物事を過度にネガティブにとらえてしまう、集中力が落ちていると感じる、意欲がわかない、理由がないが反抗的な態度をとってしまう など
・身体のサイン:寝つきが悪い・眠れない、朝のだるさが続く、食欲が落ちた、身体や顔の一部がぴくぴくと痙攣するときがある など
一次予防のもう一つとしてあげられることが、職場環境を改善することだ。これは管理職などマネジメント層に求められるものだ。
いくら社員一人ひとりがセルフケアをしていたとしても、外部要因によるストレスは防ぐことが難しい。例えば、職場の人間関係があまりよくないということや、気軽に相談できる上司と部下の関係ではない、コミュニケーションがチーム内で希薄である、などだ。
ストレスチェックを行うことは企業に義務付けられているものではあるが、その結果を踏まえて改善をすることをおすすめする。また、それ以外にも日常的にコミュニケーションが足りない、会話が足りないなど自身のチームに課題がないかを見つけ、管理職自ら行動をしていくことが重要だ。
二次予防とは、心身の健康異常が出ている社員の重症化を予防することだ。メンタルヘルス不調者の早期発見を目的としている。症状が見られた社員には、上司が適切な対応をとっていく。
なお二次予防の施策は以下の通りだ。
上司が部下と面談することで、メンタルヘルス不調者を早期発見していく。他の社員に話を聴かれないように、個室で実施することが大切だ。
上司が部下と対話した結果、他の人に任せた方が良いと判断したら、メンタルヘルス不調者を相談窓口に促す。社内に産業医や保健スタッフがいる場合は、組織や企業と提携して早急に対応し、いない場合は外部の医療機関や保健所を紹介する。
三次予防とはメンタルヘルス不調で休職中の方が、以前と同じ状態で働けるようにサポートすることだ。組織や企業が中心となって行う。
短期間で復帰させると再度、メンタルヘルス不調に陥る場合があるため、相手のペースに合わせて行うことが大切だ。なお三次予防の施策として、以下の内容が挙げられる。
休職中の社員が復帰できるようにフォローすることで、職場復帰しやすい環境をつくる。職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を行ったり、リモートワークや時短勤務を導入したりしていく。
メンタルヘルス不調者の状況を見ながら、フォローの仕方を変えることが大切だ。
職場復帰支援プランを作成し実施する理由は、組織や企業に復帰できる状態をつくるためだ。職場復帰支援プランは、組織や企業としての職場支援の方向性やプロセスなどを記載した「職場復帰支援プログラム」をもとに作成される。メンタルヘルス不調者の状況を考慮しながら、プランの内容を決めていく。
メンタルヘルス不調の予防・対処する際は、4つのケアが大事になってくる。最後に4つのケアを解説していく。
セルフケアとは、メンタルヘルス不調者が自分で行うケアのことだ。例えば、以下の内容がセルフケアに該当する。
生活習慣を改善すると、心の健康を保てる可能性がある。バランスのとれた食生活や規則正しい睡眠、運動不足の解消などが代表例だ。その他に、自分の趣味を楽しむのも良いだろう。
セルフコンパッションとは、ありのままの自分を受け入れることだ。心をコントロールする上で有効だと言える。
セルフコンパッションを習得すれば、自己肯定感を高められるため、ネガティブなことが起こっても前向きに対応することが可能だ。結果、ストレスが軽減され、心の健康状態を維持する上で役立つ。
自ら相談しに行くのもセルフケアに含まれる。仲の良い知人や信頼している社員などと話せば、不安や悩みが解消されるかもしれない。結果、メンタルヘルス不調の予防に役立つ。
ラインケアとは、上司が部下に行うケアのことだ。もしこの記事を読んでいる方が管理職や部下を持つ立場の方であれば参考にしてほしい。今は管理職でない方も、今後このような役割を任される可能性があるという意識で読み進めてもらいたい。
具体的にラインケアとして上司が行うことは以下の通りだ。
上司側が気づき声をかけると、部下の心の状態が良くなる可能性がある。声をかける際はタイミングが大切だ。部下の仕事がひと段落したり、業務量が少なかったりするときに、声をかけると良いだろう。
また、簡潔に声をかけることも重要だ。「最近、何かあった?」「体調が悪そうだけど、無理してない?」というように、疑問形で話すと部下は返しやすくなる。
メンタルヘルス不調者に聞き取りを行うのもラインケアの一種だ。聞き取りの内容をもとに、部下へ適切なアドバイスができれば、悩みが解消される。
メンタルヘルス不調者の業務量を調整するのも、ラインケアに含まれる。業務量を減らしたり、別の業務を任せたりしながら変えると良い。
適切に調整することで、心の健康を取り戻しやすくなるだろう。
事業場内産業保健スタッフなどによるケアとは、「社内の産業医」や「衛生管理者」によって行われるケアのことだ。セルフケア・ラインケアのみでは解決できない、あるいは保健スタッフのサポートが必要だと思われるときに実施される。
相談を受けたり不調に気付いたりした上司一人で解決することが重要ではない。適切な初期対応をした上で、適切な専門部門や窓口に早急に案内し、症状が悪化する前に対応してもらうことが重要だ。なお、事業場内産業保健スタッフなどによるケアの内容は以下の通りだ。
産業医や保健スタッフによって、メンタルヘルス不調者を働けるようにするためのアドバイスをする。医療関係者目線でアドバイスを受けられることが特徴だ。
メンタルヘルス不調者が職場復帰できるように、復帰支援プログラムの監修・助言を行うのも、事業場内産業保健スタッフなどによるケアに含まれる。
復帰支援プログラムの作成~実践までを、メンタルヘルスの知識がない社員のみで行うと失敗してしまう。復帰できる確率をアップさせるためにも大事だ。
メンタルヘルス研修の実施も含まれるだろう。全社員に対して行う場合もあれば、人事や労務など一部の社員に対して行うケースもある。
メンタルヘルス研修を受講すれば、メンタルヘルスに関する共通認識を社員同士で持つことが可能だ。結果、メンタルヘルス不調の社員を減らすのにつながる。
事業場外資源によるケアとは、メンタルヘルスの知識を持つ社外の施設によるケアを指す。医療機関や地域の保健所などが該当する。
内部関係者のみの対応が不十分なときに活用できるだろう。産業医や保健スタッフが紹介するケースもあれば、組織や企業が見つけて紹介するケースもある。
メンタルヘルス研修を受講すれば、前述で紹介した4つのケアの質が高まるだろう。必要なスキルや、とるべきアクションをイメージできるからだ。
メンタルヘルスに関する知識がない者同士で、メンタルヘルスケアのことを極めようと思っても限度がある。メンタルヘルスに精通している講師から学んだ方が、効率的にスキルを習得できるだろう。全社員がメンタルヘルスの知見を深めるためにも、定期的に受講すべきだ。
社員のメンタルヘルスの管理は、組織や企業の役割として必須だ。メンタルヘルスの不調の社員が増えると、人手が足らなくなったり職場環境の士気が下がったりなどデメリットがある。
メンタルヘルス不調は、必ずしも目に見えるわけではない。普段からメンタルヘルス不調の社員がいないか、常日頃から組織や企業としてチェックすることが大切だ。なお、メンタルヘルス不調者に見られるサインとして、以下の内容が挙げられる。
上記の変化が見られる場合は、メンタルヘルス不調の可能性があるだろう。不調が見られた場合は、適切なケアを施す必要がある。
社員の状況に応じて、上記のケアを使い分けることで、メンタルヘルス不調の予防や適切な対処がとれるだろう。
なお、4つのケアの効果を高めるにはメンタルヘルスに関するスキルの習得が必須だ。その際、「メンタルヘルス研修」の受講は役立つ。プロから学べるため、効率よくスキルを身に付けられるだろう。
心が健康になれば、仕事が楽しくなるかもしれない。全社員がイキイキと働く環境を実現させるためにも、メンタルヘルスに力を入れていただきたい。