働き方改革が実践されている昨今、組織を束ねる管理職が求められる役割も多様化してきている。
複数の社員がいるなかで、管理職はただ結果へと導くのではなく、全体として成長していける環境づくりを目指すことが必要だ。今回は、現代の管理職に求められる役割と仕事について解説していく。
管理職には、実に多くの役割が求められる。業務を滞りなく進行させるために、目標の設定や進捗管理、生産性の改善、セキュリティーおよびコンプライアンスの徹底した管理を行う。
また、社内全体で向上していくために、部下の育成やモチベーション管理、人事評価、労務管理といった重要なことに取り組むのも管理職だ。
一般的に、企業内における課長以上のクラスが管理職だ。多くの社員を束ねて1つの目的に導いていく、いわば監督のような存在といえる。管理職は英語でマネジャーと訳れ、オーストリア生まれの経営学者ピーター・ファーディナンド・ドラッカーは、マネジャーを「組織が辿り着いた結果に対して責任を持つ存在」と定義している。
管理職が取り組むべき課題は、以下の4つに分類できる。
管理職が直面する課題は非常に多く、またどれも重要なものばかりだ。それゆえ、役割や仕事に対する責任も重くのしかかる。
日本における1970年代は、高度経済成長期の真っ只中だった。この時代の会社を支えたのが、当時働いた人々だ。現代では死語となった「企業戦士」「猛烈社員」といった言葉が生まれるほど、社員は会社に対してただ従順に働いていた。
かつての日本の会社では、上に従うことを美徳としてきた。会社全体の同質性が、もっとも強大な武器になると考えていたためだ。「するべき」「こうであるべき」といった考え方を部下に叩き込み、ただ指示したとおりに働ける社員を生み出した。
しかし、多種多様な働き方が模索されている現代では、ただ会社に同調するだけの考え方は求められていない。どうしてこの作業を行うのか、もっとよりよい方法はないのだろうか、といったように、疑問を持ち常に新しい考え方を生み出す能力が求められている。
そのため、管理職の役割も変化しました。ただ従順にいうことを聞く社員を育てるのではなく、個々の可能性を活かし、ときには対等に向かい合って共通の目標に向かっていく指導力が求められています。
管理職は、継続的に結果を出せる組織に導く役割を持っている。ただひとつの目的に向かっていくのではなく、継続的に結果を出していかなければならない。そのため、対人関係に重視しながら組織全体で成長していけるよう指導していく必要がある。
継続的に結果を出していくためには、よしとされる結果とは何かをあらかじめ定義する必要がある。組織全体で向かっていく目的地となるため、明確にすることが大切だ。よしとされる結果は、会社の事業戦略によって異なる。営業部門の場合、純粋な売り上げやシェア率が具体的なよしとされる結果として考えられる。
しかし、一言に売り上げやシェア率といっても抽象的すぎる。ただ純粋に売上金額の目標を設定するのか、あるいは成長率に着目するのか、このような具体的な目的を定める必要がある。
目的を決めたあと、実際に管理職が取り組む仕事について、以下の3つに分類して解説する。
向かっていく目標を定めたら、次に行うべきは業務の構想だ。理想の結果に辿り着くためには、何が必要かを考える。このとき、部分最適になってしまわないように注意が必要だ。局地的に最高のパフォーマンスを発揮できても、全体として追いつけていなければ意味がない。業務においてどのような能力が求められているのか、この場面で活躍できる組み合わせは何か、このように考えながら仕事を割り当てていくのが理想的だ。
実際に業務を行なっていくうえで重要となるのが、進捗管理およびPDCAだ。もし管理職がその場にいなかったとしても、滞りなくPDCAのプロセスで進められる仕組みを構築する。管理職のみでPDCAが成立していると、社員たちの発展性に問題が生じ、管理職が離れてしまうような事態になれば組織の継続すら困難だ。
環境の変化が目まぐるしい昨今では、PDCAに加えてOODAも重要とされている。OODAは、状況を判断し観察して決定し、行動に移していく一連のループだ。OODAを素早くループ化させられるようになれば、問題点を直ぐに修正できるだけでなく、管理者として主導権を握れるようになる。
変化の激しい現代では、PDCAとOODAを組み合わせて、常に新しい方法を模索しながら動いていくことが求められている。
管理職には、組織の出した結果に対して改めて見直し、今後を見据えて考えていく能力が必要だ。維持と変革の2つの見方での見直しをするということである。
手応えのあった業務に対しては、今後はよりスムーズに進行できるように維持しながら運営していくことが望ましい。現場に近しい場所に管理職がいる環境の場合、業務の維持は実現しやすいとされている。
一方、社内と社外を問わず、組織を取り巻く環境は常に変化する。一度は結果を残した業務だとしても、明日には時代遅れに感じてしまう可能性もある。管理職は常に客観的に物事を判断し、ときには変革を考えていくことも大切だ。
管理職は、組織が結果を出せるように客観的に見ながら導いていく重要な役割を持っているが、そのほかにも取り組むべきことがある。それが、組織面から見た管理職の役割だ。具体的には、社員との信頼関係を構築して育成し成長を促していく。3つのポイントに分類して解説する。
業務に取り組むなかで、何故自分がこの作業をやっているのか疑問を抱いてしまうのは避けたいことだ。何故この業務を行なっているのか、意味や意義を見出そうとするのは、人間として自然な考え方だ。また、どれだけ能力を持っている社員が集まっていたとしても、向かっていく方向がバラバラでは結果につながらない。
管理職は、社員全員に会社の理念や戦略を浸透させていく役割がある。企業戦士のようにただ闇雲に考え方を押し付けるのではなく、根本的な意味を理解してもらう。会社が提示する理念や戦略をそのまま伝えるのではなく、管理職の方が自分なりに解釈をして伝えていくことが大切だ。
会社はどこを目指しているのか、そのために自分たちは何ができるのか、結果に辿り着いた先に何があるか、具体的なビジョンを組織全体で持てることが理想だ。
人間は自らの経験によって学ぶことが7割を超えるとされている。すなわち、社員たちに振り分けた業務が、そのまま育成につながる。
基本的には、現場で求められている能力に相応しい長所を持った社員を抜擢することが、効率的に結果を出すために有効な振り分けだ。しかし、社員の成長を促すためにあえて苦手としている業務を任せるといったこともときには必要だ。現段階でのスキルを見たうえで、次のステップに進むために実践のなかで経験させることが良いだろう。
このとき、苦手な業務に取り組む社員を心理的にフォローする体制を用意しておく必要がある。仮に失敗したとしてもフォローが効く状態にしておき、業務から外すのではなく改善できるように促す。心理的に安心できれば、社員も失敗を恐れずに業務へ取り組めるようになる。
管理職には、社員同士で互いに高め合って成長していける環境を作ることも求められる。社員同士が積極的に意見を交換できるように、管理職自身が橋渡しとなる。
業務への振り分けに対して、責任の所在を明確にし、行うべき行動を選んだ場合は認め、咎めるべき行動を選んでしまった場合は相応の責任をとらせる。そうすることで、社員それぞれが最善の選択を目指せるようになり、仮に失敗しても経験から学べる環境が実現できる。
管理職は、ただ複数人の部下を束ねて業務を指示するだけの役職ではない。組織全体を客観的に見たうえで、よりよい結果を出せるように導いていく役割を持つ。そのためには、ただ目の前の目標を見るのではなく、社員がそれぞれ成長していける環境づくりを目指すことが大切だ。
これらの内容を、社内や社外で実施される新任管理職研修などに参加することで強化することも重要だ。本記事の内容を参考に、より良い管理業務ができるようにスキルを磨いていってほしい。