会社の中には、経営理念の他に「経営ビジョン」を設定しているケースが多くある。両者は似て非なる言葉だ。違いを分からずに経営ビジョンを決めると、中途半端なものになる。良い経営ビジョンを作るには、抑えるべき注意点やポイントがある。
本記事では経営ビジョンの意味を解説しつつ、経営ビジョンを策定時の注意点やポイントを紹介していく。
経営ビジョンとは自社の将来像を示したものだ。会社は時代の流れを考えながら経営する必要がある。しかし会社としての動き方を社員たちに提示しないと、社内にまとまりができなくなる。それを防ぐのに役立つのが経営ビジョンだ。
経営ビジョンを決めれば、会社として目指す方向性が分かる。それをもとに社員たちは同じ方向へ動いていく。よって経営ビジョンは、まとまりのある組織を作るのに役立つと言える。
経営ビジョンは自社の将来像を表しており、時代によって変化していく。たいして経営理念では、自社としての在り方を表している。経営ビジョンと違い、変更されることは少ない。よって両者の意味合いは異なる。
経営ビジョンを決める目的は以下の通りだ。
経営ビジョンを掲げれば、社員たちは共通した目標に向かって歩んでいく。メンバー同士で協力する体制ができるため、モチベーションアップにつながる。
社員たちのモチベーションが上がれば、仕事への熱量が高まっていく。結果、業務の生産性向上が期待できる。
経営ビジョンを掲げれば、会社に付加価値がつく。自社のイメージアップが期待でき、ブランディングに良い効果を与える。
経営ビジョンに共感する顧客やクライアントを増えれば、売上アップが期待できる。会社の経営成績を良くするのにも、経営ビジョンは役立つ。
最後に経営ビジョンを作るときの注意点・ポイントを紹介する。
この作業を怠ると経営理念と矛盾が生じ、経営ビジョンに説得力がなくなる。自社に不信感を持つ顧客が増えて、会社のイメージが悪くなっていく。信頼を損なわないためにも、経営理念をもとに考えた方が良い。
数字や成果が目立つビジョンにすると、利益主義の会社だと思われてイメージが悪くなる。現代では社会貢献やSDGsなど、利益アップ以外の面においても求められる。よって、経営ビジョンの中に数字や成果を盛り込むべきではない。
たとえば「世界の人々が安心して使える商品を提供します」とすれば、数字や成果が盛り込まれていないため、利益主義の会社だと思われにくい。
社外の方など、多くの方々がイメージできるビジョンを作ると、自社のビジョンに共感する支持者が増えていく。その状態が実現されると、自社に対するポジティブな意見を口コミやSNSなどで拡散してくれるかもしれない。
多くの方にイメージされるビジョンを作るときは、以下のことを心掛けると良い。
長文だとビジョンを見たとき、理解するまでに時間がかかってしまう。言葉が短ければ、ビジョンを見たときに一目でわかる。よって、ビジョンの言葉は短くした方が良い。
聞き馴染みのある言葉を盛り込むと、ビジョンの内容が理解しやすくなる。難しい言葉や一部の業界でしか使われない言葉は控えた方がいいだろう。
社員としての目線のみでビジョンを考えると、特定の方しか理解できないビジョンになってしまう。ビジョンを多くの方々に理解してもらうには、第三者視点でビジョンを考えることが大事だ。
少人数の社員でビジョンを作ると、その中でしか理解し合えないビジョンになってしまう。それを防ぐには、大勢の社員で意見を出し合った方が良い。あらゆる視点で意見を取り入れることができ、社外の方にイメージしてもらえるビジョンを考えやすくなる。
経営ビジョンを掲げても、できなければ意味がない。ハードルが高すぎると、社員達のモチベーションは下がる。それを防ぐには、実現可能なビジョンが求められる。実現可能なビジョンであれば、社員は前向きに働く。結果、モチベーションの低下に役立つ。実現可能なビジョンを作るときは、以下のことを意識するといい。
世の中と向き合って実現可能なビジョンか考えると良い。「世の中の役に立つか」「時代にマッチしているか」「人々の暮らしを豊かにできるか」といった観点で、実現可能なビジョンか見極めるといいだろう。
会社の現状を把握してビジョンを考えるのも大事だ。たとえば「インフラの整備・開発に貢献する」というビジョンであるにも関わらず、それに関するスキルを持つ人材がいない場合、実現させるのは厳しいだろう。
素晴らしいビジョンを掲げても、実現できないビジョンでは意味がない。この状況を作らないためにも、会社の現状を考慮したビジョンの設定が大事だと言える。
先に自社の目標を決める理由は、目標とビジョンが連動している状態を作るためだ。仮にたとえば目標とビジョンがかけ離れていた場合、社員はどちらを参考にして動くべきか分からなくなる。その結果、中途半端な行動になり、目標もビジョンも叶えられない状態になってしまう。
その状態を防ぐ意味で、目標と連動したビジョンを作ることは大事だと言える。両者が連動すれば、社員は迷わずに済むため行動しやすくなる。よって、自社の目標を決めてからビジョンを設定した方がいい。
経営ビジョンでは、自社らしさをアピールすることも大事だ。自社らしさがないと同業他社に埋もれてしまい、注目してもらえないからだ。
注目してもらえないと、企業としての存在感を出せない。以下の内容を意識すると、自社らしさを見つけやすくなる。
普段、自社で起こっていることを振り返ると良い。「社員たちが笑顔で談笑している」「仕事のトラブルが起こったときに全員で問題解決に励んでいる」など、思い浮かぶものを次々と挙げるといい。すると自社の特徴が見つかりやすくなる。
「顧客への対応が早い」「仕事のクオリティーが業界の中で高い」といった形で自社の強みを挙げるのも効果的だ。自社らしいビジョンを作るのに役立つだろう。
自社を取り巻く市場の分析をすべき理由は、市場にマッチしたビジョンを作るためだ。たとえば、以下の分析方法がある。
PEST分析とは、4つの項目に沿って自社を分析する方法のことだ。分析項目は下記の通りだ。
政治的要因では、法律やルールに関する分析をしていく。分析内容の例は以下の通りだ。
経済的要因では、景気に関する分析をしていく。以下が分析内容の例だ。
社会的要因では、社会的状況に関する分析をする。分析内容の例は以下の通りだ。
技術的要因では、技術に関する分析を進めていく。以下が分析内容の例だ。
上記4項目の分析をすると、様々な視点から自社の現状や立ち位置が分かる。それをもとにビジョンを作れば、良いものができあがるはずだ。
5フォース分析とは、自社に及ぼす脅威について5つの視点から分析することだ。分析内容は以下の通りだ。
同業他社によって、自社の売上が下がるリスクが考えられる。以下の内容は、同業他社による脅威の例だ。
ライバルとなる同業他社を挙げていき、どのようなリスクがあるか考えていくと分析しやすい。
新規参入の企業が現れたことで、売上ダウンを引き起こすリスクも考えられる。たとえば、以下の例が挙げられる。
自社の業界に参入する企業を調べて、どのようなリスクが考えられるか調べると分析しやすくなる。
代替品の登場によって、自社の商品やサービスが売れなくなるリスクもある。代替え品による脅威の例は、以下の通りだ。
時代の流れによって、今後不要となる商品やサービスがないか確認した上で分析するといいだろう。
顧客の気持ちが変わって、売上ダウンを招くリスクもある。以下の例が挙げられる。
自社の商品やサービスに対して、顧客が持ちそうな不満を推測しながら、分析を進めるといいだろう。
仕入先の力が強すぎて、自社が不利益を被るリスクもある。たとえば、以下の例が挙げられる。
自社の財政状態を圧迫する仕入先を挙げながら、分析を進めるといいだろう。
経営ビジョンは、会社の将来像を示すものになるため作るべきだろう。会社としての方向性が定まり、社員たちを統率しやすくなる。さらに社員たちのモチベーションを上げたり、会社に付加価値をつけたりする効果も期待できるため、業務効率化や会社の売上アップにつながる。
しかし適当な経営ビジョンを決めると会社の成長がストップする。したがって、正しい方法でつくることが大事だ。経営ビジョンを決めるときの注意点は以下の通りだ。
上記のことに気を付ければ、意味のある経営ビジョンを作れるだろう。ただし経営ビジョンは時代の流れによって変わるため、定期的に見直しを行わなければならない。放置すると、古い価値観の経営ビジョンになってしまう。会社として時代に取り残されないためにも、定期的に経営ビジョンを見直していただきたい。