企業が直面する問題の一つに「人材の能力開発」がある。解決のためには、人材の能力が何であるかを理解することが不可欠だ。
能力を理解し、開発する上で有用な理論の一つが「カッツ理論(Katz's Three-Skill Theory)」だ。この理論は、組織で必要とされる三つの基本的な管理能力、すなわち技術能力、人間関係能力、概念能力を提唱している。
今回の記事ではこの「カッツ理論」を詳しく解説し、その適用方法についても触れる。
組織運営で重要な要素の一つが「人材」だ。
その人材の能力をいかに開花させるかは、組織の成功に直結する。人材の能力を考える際に参照することが多い理論が、アメリカの社会心理学者であるロバート・カッツ(Katz, Robert L.)による「カッツ理論」だ。
カッツ理論とは、組織の中で活躍するために必要な管理能力を、技術能力、人間関係能力、概念能力の3つに分けて捉えた理論である。
これら3つの能力は階層的に関連しており、組織の上層部に行くほど概念能力の重要性が増し、逆に組織の現場に近いほど技術能力の重要性が増すとされる。
これがカッツ理論の基本的な概念だ。この理論を理解し、適用することで、組織内の人材開発に対する視点が広がるだろう。
「技術能力」は、特定の作業を遂行するために必要な専門的な知識や技術を指す。この技術能力は、直接的な業務遂行に欠かせない能力だ。
たとえば、製造業の工場であれば、機械の操作方法や製品の組み立て方、IT企業であればプログラミングのスキルやソフトウェアの使い方といった具体的な技術や知識がこれに該当する。
そして、この技術能力は組織の現場に近い位置、つまり直接的な業務を遂行する役職(例えば現場作業員や一線のエンジニア等)において、特に重要とされる。
技術能力を向上させるためには、具体的な教育・トレーニングが必要となる。この教育・トレーニングは、業務の手順や操作方法、必要な知識を具体的に伝えるものだ。これは、新人のオリエンテーション、技術研修、ハンズオントレーニング等を通じて行われる。
たとえばパソコンを使った業務であれば、パソコン・OAスキル研修、経理であれば会計・財務・法務研修が有効だろう。
しかし、技術能力だけを重視しても組織の成果を上げることは難しい。人間関係能力や概念能力と組み合わせることで、初めて全体としての組織的な能力が高まる。
だからこそ、カッツ理論ではこれら三つの能力がバランス良く発揮されることを強調している。
「人間関係能力」は、他人と良好な関係を築き、コミュニケーションを円滑に進める能力だ。この能力は、他者との協働やコラボレーションを可能にし、組織内での信頼関係の構築に寄与する。
たとえば、チームのリーダーが部下の意見を尊重し、その意見を取り入れることで良好な人間関係を築く。これは、部下がリーダーを信頼し、より積極的に業務に取り組むための基盤を作る。
また、顧客対応の際、担当者が顧客の要望をきちんと理解し、丁寧に応えることで顧客との良好な関係を保つ。これは、顧客満足度を向上させ、組織全体の評価を上げるために必要な能力だ。
人間関係能力を向上させるためには、コミュニケーションスキルの習得、他者を尊重する態度、チーム内の協調性を育むことが重要である。
これは、コミュニケーション研修やワークショップを通じて、または実際の業務の中で学ぶことが可能だ。
技術能力が直接的な業務遂行に必要な能力であるのに対して、人間関係能力は間接的な業務遂行に必要な能力であると言える。
人間関係能力が高い人材は、組織内のコミュニケーションをスムーズにし、組織全体の協働を向上させる役割を果たす。
「概念能力」は、抽象的な思考を行い、複雑な問題を解決するための能力だ。
具体的には、組織全体のビジョンを描く能力、戦略を設計し計画する能力、そして複雑な問題に対して柔軟な思考を働かせ解決策を見つけ出す能力を含む。
たとえば、会社の長期的な方向性を決定したり、新製品の開発戦略を設計したりするのがこの概念能力だ。また、組織が直面する問題や危機に対して、創造的な解決策を提案する能力も概念能力に含まれる。
概念能力は、組織の上層部、特に経営層や戦略を決定する役職において重要となる。彼らは、単に現状の問題を解決するだけでなく、将来にわたって組織が直面するであろう問題やチャンスを予測し、それに対する準備を行う責任を持つ。そのためには、組織全体を俯瞰し、抽象的な思考を行う能力、すなわち概念能力が求められる。
管理職研修で基礎を学び、管理職向け 経営視点強化研修や概念化能力向上研修などで、概念化能力を磨いてほしい。
概念能力を向上させるためには、実践的な経験の積み重ね、幅広い知識の取得、多角的な視点から物事を見る思考訓練が必要だ。
これらは、組織内の異なる業務やプロジェクトに関与すること、幅広い分野の書籍を読むこと、異なる視点から問題を分析する訓練をすることなどによって得られる。
カッツ理論は、組織運営や人材開発における重要な参考フレームワークとなる。
技術能力、人間関係能力、概念能力の3つの能力が、組織内での活動にどのように影響を与えるのかを理解し、それぞれの能力を適切に育成・活用することで、組織のパフォーマンスを向上させることができる。
まず、技術能力については、業務内容によって必要となる具体的なスキルや知識を把握し、それに対する教育・研修を行う。これは、具体的なワークフローや業務の手順、操作方法を指導することで実現する。
次に、人間関係能力は、コミュニケーションスキルの研修や、チームビルディング活動を通じて向上させることができる。また、相手を尊重し、適切にフィードバックを行う文化を組織全体で育むことも重要だ。
最後に、概念能力は、組織の目標やビジョンを明確に共有し、それに向けた戦略を考え、実行することで鍛えられる。また、異なる視点や意見を取り入れることで、より広範で深い理解を得ることが可能だ。
各人材が自分の役割に応じたバランスでこれらの能力を持つことが、組織全体の成功につながる。たとえば、一線の技術者は技術能力を重視し、マネージャーは人間関係能力を、経営層は概念能力を特に重視する。
こうした視点から、カッツ理論は人材開発の有用な指針となるだろう。
カッツの三技能理論は、組織における効果的な人材育成や運営を理解するためのフレームワークだ。この理論は、技術能力、人間関係能力、概念能力の3つの能力を強調する。
技術能力は、具体的な業務遂行に必要な専門知識や技能で、これは現場での作業や一線での業務に重要だ。次に、人間関係能力は、他人との関係を築き、コミュニケーションを円滑に行うための能力で、これは組織内の協働や信頼関係の構築に役立つ。最後に、概念能力は、抽象的な思考を行い、複雑な問題を解決する能力で、これは組織のビジョンや戦略の策定、また未来の問題やチャンスの予測に重要となる。
これらの能力は各々の役割に応じて適切にバランスを取りながら鍛えられるべきであり、組織の成功には欠かせない要素だ。
なお、早期離職防止コンサルティングで数々の実績を持つ株式会社カイラボでも、役割ごとに求められるスキルの違いについて詳しくまとめられている。→カッツモデル 職位ごとに求められるスキルの違い