部下に指示を与えても、人ごととして聞き流される上司もいるだろう。それは、部下自身に「自分事化」する習慣がないことが原因かもしれない。自分事化できていれば、上司の話を真摯に受け止める習慣ができるはずだ。
社員の自分事化には、さまざまなメリットがある。本記事では、自分事化させるメリットとコツを中心に紹介していく。
自分事化とは、当事者意識を持って物事に取り組むことだ。自分事化できる方は、主体的な行動をとり自己責任の下で動く。そのため他人に依存せず、自分の意志に基づいて行動する方が多い。
ここからは、社員が自分事化するメリットを紹介していく。
自分事として吸収していく姿勢ができるため、成長スピードが速くなる。そのため、人材教育が捗る。
自分事化すると、積極性が高まり自発的な行動をとる姿勢が生まれる。この考えが身に付いた社員が増えれば、上司からの指示がないと動かない「指示待ち人間」を減らせる。
自分の業務に対して責任を持つ姿勢がつく。それが社員のモチベーションアップを生み出す。社員たちに向上心が芽生えて、業務の質を上げようとするのが当たり前になる。手抜きをすることが減り、雑な作業をしなくなる。
自分事化できている社員は、責任感が強い。仕事を放棄する社員が減るため、部下の尻拭いをせずに済む。個人の都合によって、同僚や上司に迷惑をかけることも減るだろう。
自分事化させるには、正しい方法で取り組む必要がある。ここでは、自分事化させるコツを紹介していく。
具体的なゴールを設定させると、自ら目標に向かって動く姿勢ができる。それが、自分事化する状態を作り上げていく。なお、具体的なゴールを設定させるときは、以下のことを心掛けると良い。
曖昧な表現を避ける理由は、人によってゴールの捉え方が変わるからだ。仮に「仕事を頑張る」をゴールに設定した場合、成果を挙げて目標達成とする方もいれば、成果が出なくても一連の業務をこなしただけで目標達成とみなす方もいる。このように都合よく目標を調整できる分、手抜きしやすい状態が生まれる。
しかし「〇〇の業務を終わらせるまで頑張る」と具体的にすれば、誰が見てもゴール地点は同じとなるため、言い訳ができない。ゴールに向かって進まなければならない状態ができるため、曖昧な表現は避けた方がいい。
数値を設定することも大切だ。たとえばゴールを「来週までに仕事を終わらせる」と設定した場合であれば「〇日の△時までに仕事を終わらせる」とするイメージだ。数値を設定すれば自然と範囲が絞られていくため、具体的なゴールが完成する。ちなみに数値は、適当に決めるのではなく、根拠に戻づいて決めることが大事だ。
期限を設ける理由は、ゴールへ向かう状態をつくるためだ。期限がなかったら、後回しになってしまいゴールを目指さなくなる。そのため、意味のないゴールになってしまう。社員がゴールに向かって歩み続ける状態をつくるためにも、期限は設けた方がいい。
従業員に考えさせて自分で決断する機会を持たせると、他人に任せる機会が減る。結果、業務を自分事化するクセがつく。ちなみに、自分で決断する機会を持たせるときは、以下のポイントを抑えると良い。
自分で決断したいと思っても、優柔不断で迷う従業員もいる。その場合は、自分の判断軸を持たせるといい。決断できない状態を解消するのに役立つ。
ちなみに自分の判断軸を持たせるときは、自分の理想を描かせることが大切だ。理想が分かれば、それをもとに何を判断軸にすべきか決められる。思考停止の状態にしないためにも、意識させた方がいい。
全ての業務を決断させると、従業員の判断ミスによって大きなトラブルが起こるかもしれない。チームメンバーに迷惑がかかるため、決断させる範囲は従業員によって変えるべきだ。従業員のレベルを見極めて、上司がフォローできる範囲で設定するといいだろう。
業務の目的を伝える理由は、部下の選択ミスを減らすためだ。目的を把握すれば、社員はその業務が存在している理由が分かる。業務の背景をイメージできるため、判断ミスが起こりづらい。
選択ミスをする場合もあるが、執拗に責めてはいけない。それが理由で、決断するのが怖くなるからだ。他人に決断させる習慣がつき、自分事化しなくなる。
部下の行動力を失くさないためにも、部下が選択ミスをした際は、原因と今後の対策を明確にして、次の業務への活かし方を考えることが大切だ。
部下が困ったときに対処できるように、サポート体制を整えるのも重要だ。部下の動きが止まったり、相談されたりしたときはアドバイスをするといい。
ただし上司が答えを言うのは良くない。なぜなら上司からの答えを待つクセがついて、自分で考えなくなるからだ。そのため、ヒントを出す程度にした方がいい。
あえて責任をもたせ、多くのことを体験させると、自分でどうにかしようとする気持ちが生まれる。結果、自分事として業務に向き合う姿勢が身につく。体験させるときは以下のことを心掛けるといい。
1つのことを体験させるだけでは、知識やスキルに偏りが出る。臨機応変に対応できない社員になってしまう恐れがあるため、幅広く体験させた方がいい。
上司の想いだけで体験させる内容を決めても、部下のためにならない。効果を発揮するには、部下のレベル感を見極めてから体験させる内容を選ぶことが大切だ。
「部下のキャリア形成において必要だから体験させる」「今の立ち位置で、必要となるスキルだから体験させる」というように、根拠をもとに体験させる内容を決めると良い。
成功体験が積める内容にすべき理由は、自信を持たせるためだ。作業の中で小さな成功体験を積んでいけば、その作業が得意だと思い込む。それが自分の自信につながり、積極性アップにつながる。
失敗が怖くて消極的な行動をとる部下もいる。そのときは部下を励ますことも大切だ。「〇〇さんなら大丈夫」「〇〇さんが仕事で成果を挙げていることは知っているよ」といった形で伝えるといい。伝えられた側は恐怖を感じなくなり、トライしようとする姿勢が生まれるはずだ。
体験させるだけでは、部下は成長しない。大事なのは、終わった後に振り返りをさせることだ。良かった点や改善点など、自身で考えさせることで、さらなる成長につながる。反省した内容が別の場面で活きる場合もあるため、振り返りの時間は設けた方がいい。
仕事に対する危機感を持たせる理由は、真摯に仕事と向き合う体制をつくるためだ。真摯に向き合う習慣ができると、仕事の捉え方が変わる。
仮に、適当に仕事をこなせばいいと思っていた社員であれば「真剣に取り組む必要がある」と思うかもしれない。この気持ちが芽生えた社員は、自分事として仕事に取り組む。ちなみに危機感を持たせる方法として、以下の内容が挙げられる。
ゴールから逆算させて、今のままではマズいことを認識させる方法もある。逆算すれば、到達しなければならない目標と現状の差が分かる。その結果、恐怖心が生まれて危機感を抱きやすい状態になっていく。
最悪の状況をイメージさせるのも効果的だ。たとえば「このままのペースだと、自社に〇億円の損失が出るかもしれない」「他の部署に迷惑をかけて、社内で冷たい視線を浴びるかもしれない」と伝えると、相手はマズいと感じる。結果、危機感が生まれやすくなる。
主体性発揮研修やセルフマネジメント研修などを受けてもらうことで、自分ごとに考えられる力と培うことができる。
主体性を持って、自分事として考えて、と伝えるより、研修を通して自身を振り返ってもらうほうが効果的なためだ。ぜひ検討してほしい。
自分事化に力を入れている企業も多い。最後に、力を入れている企業を3社紹介する。
「ASVの自分ごと化」を進めている。ASVとは「Ajinomoto Group Shared Value」の略で、社会価値や経済価値を、事業を通じて提供する行動のことを指す。
自社では経営陣や管理職と対話できる機会を設けたり、自身の能力を向上できる習慣をつくったりなどして、当事者意識を持たせようとしている。その取り組みが、自分事化させるのに役立っている。
三井不動産では、世の中で進んでいるDX化を、自分事として捉えてもらうための行動を行っている。DX関連の研修を行うことで、自分の業務に落とし込む流れをつくっている。
自社では全ての事業においてDXを活用する方針であるため、DXに興味・関心がない社員も、取り組まなければならない。その結果、社員の自分事化が進んでいった。
リコーでは世の中で起こっている大きな問題を自分事化し、問題解決まで持っていくスキルを社員に習得させようと取り組んでいる。世の中で起こっている問題を、自社の力で解決していく志を大事にしているそうだ。
自社の社員だけではなく、顧客やビジネスパートナーの声を聞きながら行動を考える習慣も大事にしており、それが自分事化する習慣をつくり出している。
社員たちの仕事の質を上げたいのであれば、自分事化させると良い。自分事化すれば、当事者意識を持つようになって、仕事の向き合い方が変わる。たとえば、以下のメリットがある。
上記の効果によって、社員たちの能力が発揮されやすくなる。すると社内業務が円滑に回り、社内の生産性向上に実現させていく。それが組織力アップを生み出す。ちなみに社員を自分事化させるときは、以下のことを意識するといい。
上記のポイントを抑えると、社員の自分事化を進めるのが楽になる。自分事化できる社員が増えれば、自ら行動を起こす社員が増えてチームの業務がスピーディーに進んでいく。チーム力を上げるためにも、自分事化する社員を増やしていただきたい。