売上や利益をあげるだけに捉われると、会社の成長が止まってしまう恐れがある。会社を成長させる上で必要となるのが「人材」だ。人材にコストをかければ、企業は成長しやすくなる。
これを実現させる上で必要となるのが「人的資本経営」だ。人的資本経営に取り組めば、従業員の力が発揮されて、経営状況は良くなる。本記事では人的資本経営の概要を解説しつつ、取り組むポイントを紹介していく。
人的資本経営とは、人材の価値を最大限に発揮させながら経営することを指す。
一昔前であれば、従業員にかける費用は会社にとってコストとして捉えられることが多かった。業務を遂行してもらえれば良いと考えが根強く、従業員の個性を伸ばしていこうとする姿勢は見られなかった。
しかし近年では、従業員への費用は単なるコストではなく、会社を長期的に発展させていく上で必要な投資対象として扱われる傾向にある。
会社がお金を出して、従業員のスキルや経験を増やすことで、従業員の潜在能力を最大限引き出していく。その環境ができれば従業員が成長していき、最終的に会社の発展にもつながる。それを実現させる上で、人的資本経営はなくてはならない。
近年では、従業員に出資し続ける会社が世の中から良い印象を受けるケースが増えている。そのため、会社として今後の時代を生き抜くには、人的資本経営に取り組むことが大事になるはずだ。
現に海外でも人的資本経営は実践されており、国によっては義務化しているケースもある。人的資本経営の考え方はグローバルスタンダードとなりつつあるため、日本の企業でも求められることが増えるはずだ。
ここからは、人的資本経営が注目されている理由を紹介していく。
技術の進歩がある程度まで進み、それ以外の面が求められるようになってきた。会社のハード面だけではなくソフト面を求められる機会も増えている。その結果、人的資本経営が注目されるようになった。
持続可能性の観点で投資をする人が増えてきたのも理由だ。投資家の中には「従業員の成長機会を与え続けられる会社か」「従業員を大事にする会社か」という観点で出資する人もいる。
一昔前と比べて財務状況が良いだけで出資してもらうのは、難しくなってきた。出資してもらうために、一昔前の考えから脱却しようとする企業もいる。それも人的資本経営が注目されている理由だ。
人的資本経営を行う上で、さまざまな視点が必要となる。ここでは必要な視点を紹介していく。
人材育成が雑だと、会社を担う人材が生まれづらくなる。社内業務がスムーズに進まなくなったり、チームとしての成果を挙げづらくなったりして、会社の経営状態を悪化させるかもしれない。
しかし人材育成に力を入れれば、社内業務の質が高まり、チームで成果を挙げやすくなる。同時に会社の売上や利益がアップし、経営状態を良くする効果も期待できるだろう。
流動性も大事な視点だ。たとえば社内に新しい人材を入れると、職場の雰囲気が変わっていく。そのため、社内の士気が高まり会社経営にとってプラスになる。
また、次世代で必要となるスキルを習得させれば、時代に対応できる事業を展開しやすくなる。結果、時代の波に飲み込まれる状況を防ぐことができ、会社の倒産リスクを抑えるのに役立つ。
さまざまな価値観を受け入れる多様化の視点も大事だ。多様化が進めば、社内に新しい風が入っていく。その結果、個々がスキルや能力を発揮しやすくなり、会社が成長しやすくなる。
最後に人的資本経営を行うときのポイントを紹介していく。
経営戦略とは会社を経営する際に必要となる戦略のことだ。事業面で設定した目標を達成するためにつくられたプロセスを指す。
一方、人材戦略とは経営面で設定した目標を達成するために、人材の配置や育て方をどのようにするか示したプロセスのことだ。
経営戦略に人材戦略を連動させることで、組織の目標と個人の目標が両方とも達成できる状態が生まれる。結果、会社としての力が強くなり人的資本経営の質が高まっていく。ちなみに連動した人材戦略を立てるときは、以下のことを心掛けるといい。
必要なKPIを考える理由は、意義のある人材戦略を立てるためだ。時間をかけて人材戦略を立てても、経営戦略と関連性のないものでは意味がない。経営戦略と関連性を持たせるためにも、必要なKPIは明確にした方がいいだろう。
社内の人事部の位置づけをチェックする理由は、連動した人材戦略を立てられる立ち位置に人事部がいるか確認するためだ。
単に人材を集めたり、惰性で同じ研修を提供したりするだけの部署だったら、人材戦略を立てても目標達成のためのアクションが起こされない。結果、連動した人材戦略を立てられなくなる恐れがある。
それを防ぐ意味には、人事部の位置づけが重要だ。メンバーは変わらなくても、立ち位置が変われば人事部の動き方が変わる。結果、連動した人材戦略を立てるのが楽になっていく。
各従業員が独自性を発揮できる配置する理由は、人材戦略で掲げた目標を達成しやすくするためだ。仮に従業員の個性を潰す体制だと、従業員たちの力が発揮されない。そのため、人材戦略の目標を達成させるのが難しくなる。
しかし独自性を発揮できれば、各従業員が力を発揮しやすくなり、効率よく目標達成に向かってアクションを起こせる。従業員たちの特性やスキル・性格などを考慮した上で、配置を決めるといいだろう。
定量目標とは数値に落とし込んだ目標、定性目標とは数値に落とし込めないものを目標としたものを指す。2つの目標を把握させる理由は、従業員たちの動きをそろえるためだ。
仮に2つの目標を把握させなかった場合、従業員たちが好き勝手に動き、組織として統括するのが難しくなる。すると、会社で目指す人的資本経営の形を実現できなくなってしまう。
従業員たちが一致団結して、理想とする人的資本経営を行いやすくするためにも、定量目標と定性目標を把握させるべきだ。なお、定量目標と定性目標を立てるコツは以下のとおりだ。
定量目標を立てるときは、適当に数値を決めてはいけない。ハードルが高すぎると、従業員のやる気が削がれてしまい、低すぎると会社としてのレベルが上がらなくなる恐れがあるからだ。そのため、根拠をもとに数値を決めることが大切だと言える。
その他に、進捗状況を測れる内容にするのも重要だ。仮に進捗状況が計測できない目標だった場合、軌道修正しづらい。結果、目標達成が難しくなる恐れがある。
定期的に軌道修正しながら達成までのプロセスをスムーズに描ける状況をつくる意味でも、進捗状況を測れる内容にすべきだ。
定性目標を立てるコツは、自己満足で立てないことだ。定性目標は数値化できない分、立てる人の考え方によって内容が大きく変わる。
自分では良い目標だと感じても、会社のためにならなければ意味がない。そのため、会社の視点を取り入れながら立てることが大切だ。
その他に、定量目標とかけ離れていない目標にするのも大切だと言える。かけ離れていると、目標達成までのアクションが増えたり、2つの目標の間で矛盾が生じたりして、従業員が混乱してしまう。結果、人的資本経営をしても結果が出ない。そのため、2つの目標は関連性のある内容にすべきだ。
会社として目指す方向性と現実のギャップを把握させれば、従業員に不足しているものが分かる。その結果、足りないものを補うための施策を考えることができて、人的資本経営の質を高めやすくなる。
なお目指す方向性と現実のギャップを把握させるときは、以下のことに取り組ませるといい。
情報収集をさせる理由は、方向性と現状を明確に知ってもらうためだ。方向性が知りたい場合は、会社の理念を調べたり経営陣から話を聞いてもらったりするといいだろう。
一方、現状について知りたい場合は、関係部署の上長から仕事の状況を聞いたり、会社の財務諸表をチェックしたりすると情報が集まる。さまざまな方面から、情報を集めさせることが大事だ。
ギャップが生じるのは当たり前だと思わせる理由は、1つでも多くのギャップを見つけてもらうためだ。見つけたギャップの数によって、人的資本経営の取り組み方は変わってくる。
実際にはギャップが多いにも関わらず見つけられなかった場合、人的資本経営のクオリティが低下して会社として生き残れなくなるかもしれない。
それを防ぐ意味でも、ギャップが生じるのは当たり前という前提条件で動いてもらい、細かいギャップも見逃さない姿勢をつくることが大事だ。
PDCAサイクルとは「Plan(計画)→Do(実行)→Check(確認)→Act(改善)」の順で作業を回していくサイクルを指す。いち早く改善点を導き出し、成功させるためのアクションを起こす上で重要だ。
なおPDCAサイクルを回させるときは、以下のことを心掛けると良い。
PDCAサイクルの目的を明確にする理由は、回すことが目的になってしまう状況を防ぐためだ。惰性で回し続けても、PDCAサイクルの内容が良くなることは少ない。
よって、何のためにPDCAサイクルを回しているのか明確にした方がいいだろう。
PDCAサイクルの期間を決めておく理由は、無駄に時間をかけないためだ。一定期間PDCAサイクルを回せば、それ以上回さなくても結果が分かるケースもある。
結果が変わらないのに回し続けても意味がない。したがって回す期間を決めた上で、PDCAサイクルを回すべきだと言える。
記録として残す理由は、進捗状況が分かるようにするためだ。データがないとPDCAサイクルの回し方を変えたり、予定を変更したりしたいと思っても、何を根拠に変えたらいいか分からない。
根拠に基づいてPDCAサイクルの内容を変えられる状況をつくるためにも、記録として残すべきだ。
企業の文化として定着させるのも大事だ。会社の経営方針が変わり、時代の流れに飲み込まれずに済む体制をつくれる。
時代に合った人的資本経営を行わせる意味でも大事だ。なお、企業の文化として定着させるには以下のことを心掛けるといい。
各部署のリーダーに働きかけてもらう理由は、全部署の従業員に伝わりやすくするためだ。とくに多くの従業員を抱えている会社の場合、1人で全ての従業員に声をかけて企業の文化として定着させるのは難しい。
自然と全従業員に広がっていく状況をつくるためにも、各部署のリーダーに働きかけてもらうのは大事だ。
管理職になった方には、新任管理職研修やマネジメント研修
営業スキルを強化してほしい人には営業新人研修や営業力強化研修
お客様への対応を強化し、顧客満足を高めたい場合にはCS研修など、定期的に社員に対して勉強の場を与えることも有用だ。
必要なスキルを、必要な時に提供してもらい、成長できる企業や組織は社員が離れていかない。役職者や新入社員だけではなく、どの階層の社員も受けることができる研修を提供することも検討いただきたい。
時間をかけて行う理由は、繰り返し企業の文化を伝えることが大事だからだ。一度伝えただけで従業員は理解しない。定期的に何度も伝えることで、少しずつ社内に浸透していく。
また、短時間で行おうとすると伝え方が雑になり、従業員が拒絶反応を示す恐れがある。拒絶されると、浸透させるのが難しくなってしまう。
従業員たちへ丁寧に伝えて、企業の文化として定着しやすい状況をつくる意味でも、時間はかけた方がいい。
国内の企業において、人的資本経営は需要が高まる可能性が高い。なぜなら下記の理由があるからだ。
時代の流れに伴い、一昔前の経営では会社として生き残るのは難しい。新しい風を社内に吹き込んで、時代に対応できる状況をつくることが大事だ。
なお、人的資本経営に取り組む際は、以下のポイントを抑えると良い。
上記のことを意識すると、人的資本経営を実践できる会社になっていくだろう。人材を大切にして会社が成長できる状況をつくるためにも、人的資本経営に力を入れていただきたい。