リスキルラボ 人的資本の開示が求められる理由を紹介【魅力的な会社だと思わせる】

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財務諸表上の数値が良いだけで、投資されるとは限らない。なぜなら、それ以外の面を見られる機会が増えているからだ。近年では数字以外の面を見て、出資対象か判断する投資家も多い。

そんな中で、抑えるべきキーワードがある。それは「人的資本」だ。欧米など海外においては、人的資本の中身を開示する機会は多い。日本では公開される機会が少なかったものの、次第に開示する方向へ流れる可能性が高い。

本記事では、人的資本の概要や開示が求められる理由を解説しながら、内容やポイントなどを解説していく。

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人的資本とは

人的資本とは、従業員が持っているスキルや能力を資本として扱うことだ。一昔前は土地や機械、証券など形のある資産を中心に、出資しても良いか決めてきた。

しかし現代では、人のスキルや能力など、形のない資産を重視する傾向が強くなってきた。人的資本もその中に含まれる。したがって、人的資本が注目されるのは当然のことだと言える。

人的資本と人的資源の違い

人的資本は投資対象として扱われており、時間をかけて成長させるという考えが強い。長期にわたり出資するケースも多い。

一方、人的資源はコストとしてみなされることが多く、短期間かつ少ない出費で済ませるべきだと捉えられている。人的資本とは考え方が違うため、両者は別物だと言える。

人的資本の開示が求められている理由

ここからは、人的資本の開示が求められている理由を解説する。

有価証券報告書への記載が義務化されるから

2022年11月現在、日本では4000前後の国内企業に対して、有価証券報告書上での人的資本の開示を義務付けようとしている。その流れが世の中に広まれば、現在は対象外の企業も、そのうち開示を求められるかもしれない。

また、人的資本を開示する流れが広まれば、取引先によっては「人的資本の内容が不明な企業とは取引しない」というルールを設ける恐れがある。そのため、国内企業の担当者は人的資本の開示に対応できる体制をつくった方が良い。

無形固定資産の重要度が高まっている

無形固定資産とは、権利関係やソフトウェアなど形のない資産のことだ。近年では有形固定資産だけではなく、無形固定資産の割合を見る投資家や取引先も増えてきた。なぜなら有形固定資産が多いだけで、企業の成長性があると認識する人が減っているからだ。

有形固定資産を多く保有していても、従業員たちの能力やスキルが低いと、会社は成長できない。そのような企業と取引を行ったり、出資したりすると損失を被る恐れがある。その状況を回避したい人が増えているのも、人的資本の開示が求められる理由だ。

ESG投資に対応するため

ESG投資とは、企業の「環境・社会・ガバナンス」を考慮しながら行われる投資のことだ。国連が中心となってESG投資を世界へ広めようとしており、日本も賛同している。

企業が「環境・社会・ガバナンス」を考えているかチェックする際、重要となるのが人的資本の中身だ。内容が良ければESGを考慮している企業だと思われるが、悪ければ数字のことしか考えていない企業とみなされる。ESG投資を行う際に、人的資本を見る人が増えているのも開示を要求される理由だ。

人的資本の開示内容

人的資本の開示内容は多岐にわたる。ここでは、代表的な開示内容を紹介していく。

人材育成の進捗状況

従業員などの人材育成が、どのくらい進んでいるのか開示する。たとえば「人材育成計画に対して結果はどうだったか」、「女性管理職の在籍人数・増加率」などを載せる。進捗状況が良ければ、人材育成に力を入れている企業だと認められやすい。

多様性の状況

社内における多様性の状況についても開示する。たとえば多様性が進んでいる企業では、地域の方々と一緒に取り組んだり、人種・性別に関係なく採用したり、子供がいる親でも働きやすい職場環境をつくったりなど、さまざまだ。多様性を生み出すための取り組みが増えれば、その分開示できる内容も多くなっていく。

一方、何も取り組んでいない企業は、載せられる内容がない。多様性が進んでいない企業だとみなされ、将来性のない企業だと思われてしまう。

従業員の健康状態

従業員の健康状態についても開示する。健康ではない従業員が多いと、仕事のパフォーマンスが下がったり、欠勤者が増えたりして業績悪化につながるからだ。従業員の健康を維持するために行っていることを載せる場合が多い。

コンプライアンスの順守ができているか

会社として、コンプライアンスの順守ができているかも開示する。コンプライアンス順守に対する会社の考え、コンプライアンス教育の取り組み、順守させるための会社としての運営状況などを載せることが多い。

人的資本の情報開示をするときのポイント

最後に、人的資本の情報開示をする際のポイントを解説する。

社内の人的資本を把握する

情報開示を行っても、社内にどのような人的資本があるか分からなければ開示できない。したがって、社内の人的資本を把握することは大切だ。把握する上で必要なのが、従業員への聞き取りだ。

聞き取りを怠ると、人的資本を開示する際に誤った内容を伝える恐れがある。それを防ぐ意味で把握するのは重要だ。ちなみに聞き取りを行うときは、以下のことを意識すると良い。

質問の意図を伝える

質問の意図を伝える理由は、人的資本の開示に役立つ回答をしてもらうためだ。単に質問するだけだと、回答の質にバラツキが出る。聞き手側が求めている回答を得るためにも、質問の意図は伝えた方が良い。

質問内容は具体的にする

明確な答えを得たいのであれば、質問内容を具体的にすることも大事だ。たとえば「1年間で身についた資格はあるか」「コンプライアンス教育は受けているか」といったイメージだ。細かく質問することで、設問者が想定した回答を得られる。

社内の目標を設定してから情報開示する

目標を設定する理由は、会社としての方向性を示すためだ。方向性が定まれば、それに向かうために人的資本として何を開示すべきか明確になる。その結果、人的資本を開示した際の説得力が増す。ちなみに社内の目標を設定するときは、以下のことを心掛けると良い。

数字を盛り込む

数字を盛り込む理由は、目標を具体的にするためだ。たとえば「女性管理職の人数を10人増やす」という目標にするとゴールまで、あと何人増やすべきか分かる。このように数字を盛り込んだ目標は、進捗状況を明確にしやすい。目標達成までに必要なこともハッキリするため、人的資本として何を開示すべきか決めやすくなる。

無理難題な内容にしない

無理難題な内容にすると、人的資本の中身も必然的に基準が高くなる。投資家からは「本当にそんなことができるのか」と疑われ、従業員からは「そんなハードルが高いことはできない」と思われてしまう。

すると社内外の人間が、会社に対して不信感を抱く。会社から人が離れる状況を防ぐためにも、無理難題な目標を設定すべきではない。

「ISO30414」の内容をもとに行う

ISO30414とは、人的資本を開示する際に用いられるガイドラインのことだ。これがあれば、人的資本の開示に慣れていない企業もスムーズに作業を進められる。ISO30414をもとに、人的資本の開示に関するルールを設定するといいだろう。

開示すべき情報を絞る

必要のない情報を開示すると、第三者が理解できなくなったり、投資家にネガティブな印象を与えたりして、自社が損失を被ってしまう恐れがある。相手に誤解を与えない意味で大切だ。ちなみに開示すべき情報を絞る際は、以下のことに気を付けるといい。

情報を可視化した状態で開示する

曖昧な情報の開示は、不信感を与える原因になる。それを防ぐには、数字や事例などを用いて可視化したものを開示すべきだ。社内外の人に信頼してもらう意味で必要だ。

都合の良い情報ばかり開示しない

都合の良い情報ばかり開示すると「何か隠しているのではないか」と疑われる原因になってしまう。全てが想定通りに進んでいる会社は、極めて少ない。隠し事がないことをアピールする意味でも、自社にとって都合の悪い情報も開示すべきだ。

同業他社との差別化を意識する

同業他社と同じ内容の情報を開示しても、注目されない。それを解消するには、同業他社との差別化が大事だ。ちなみに差別化する際は、以下の流れを実践するといいだろう。

ステップ1.同業他社を調査する

まず行うのは、同業他社を調査することだ。同業他社の強みや弱みなどを細かく知り、市場の状況を把握する。

ステップ2.自社のことを調査する

同業他社を調査したら、自社についても調査する。ステップ1と同様に強みや弱みを挙げる。その後、同業他社との違いを調べていく。

ステップ3.同業他社にない強みを探す

ここでは、自社にあって同業他社にはない強みを探す。調査結果を比較して、思いついたものを次々と挙げていく。枠にとらわれないのがコツだ。

ステップ4.外部のニーズを把握して、何を開示するか決める

同業他社にないものを挙げても、その内容がマイナスに映っては意味がない。自社に対する印象を良くするには、外部のニーズを把握して何を挙げるべきか正しい選択をすることが求められる。

相手の立場を考えて開示する

立場を考える理由は、相手によって求める情報が違うからだ。たとえば投資家の場合は「株を長期保有して大丈夫か」というように、投資対象としての視点で判断する。

一方、取引先の場合は「取引を続けても大丈夫な企業か」「自社にとってリスクのない取引先か」など、ビジネスパートナーとしての視点で見ることが多い。両者は視点が異なるため、投資家にとって好印象でも、取引先にとってはネガティブに映るケースがある。その状態を回避するためにも、相手の立場に合わせて開示内容を設定した方が良い。

まとめ

アメリカなどの外資系企業では、人的資本の開示を積極的に行っている場所が多い。その流れは、やがて日本にも訪れるだろう。

人的資本の開示を国内で義務化する流れになっているため、人的資本の概要・開示に関する概要は知っておいた方が良い。ちなみに人的資本の開示が求められる理由として、以下のことが挙げられる。

  • 有価証券報告書への記載が義務化されるから
  • 無形固定資産の重要度が高まっている
  • ESG投資に対応するため

上記のように時代の流れが、人的資本の開示を後押ししている。最初のうちは4000社前後の企業が対象となるものの、今後は多くの企業に求められる可能性が高い。したがって、人的資本の開示の流れについて知るべきだ。なお人的資本の公開内容として、以下のものが挙げられる。

  • 人材育成の進捗状況
  • 多様性の状況
  • 従業員の健康状態
  • コンプライアンスの順守ができているか

上記の内容は、最低限開示した方がいいだろう。しかし、会社にあるものを何でも開示すればいいわけではない。開示する際は、注意点が存在する。下記のポイントを抑えながら開示することが大事だ。

  • 社内の人的資本を把握する
  • 社内の目標を設定してから情報開示する
  • 「ISO30414」の内容をもとに行う開示すべき情報を絞る
  • 同業他社との差別化を意識する
  • 相手の立場を考えて開示する

これらのポイントを守れば、第三者に役立つ情報の開示ができるはずだ。人的資本の開示の仕方で、自社の見られ方が大きく変わる。相手に良い印象を与えるためにも、人的資本の情報開示に力を入れていただきたい。

この記事の監修者
リスキル事務局
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Q&A
  • 人的資本とは、従業員たちの持つ能力やスキルなどを資本として取り扱うことです。投資家が出資先を決めるときの、判断材料としているケースも多いです。
  • 法的に義務付けられる可能性が高いからです。その他に目に見えない資産の価値が高まっていたり、ESG投資に対応したりするのも理由と言えます。
  • 社内の人的資本を把握することが重要です。その他に社内で目標設定をして、それを達成するために必要なことを挙げたり、同業他社との差別化を意識したりすることも忘れてはなりません。
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