「1on1」ミーティングとは、定期的に上司と部下が1対1で話し合うことを指す。米国シリコンバレーでも“1on1 meeting”は文化として根付いており、人材育成の手法として世界的に注目を集めている。日本ではヤフーが取り入れたことで話題になり、現在は多くの企業で導入が進んでいる。
そこで今回は、 1on1の内容や目的、そして実際に導入するときに何に気をつけるべきかのポイントを解説する。
1on1とは、上司・マネージャーが、部下・メンバーと1対1になりミーティング面談をすることを指す。年度初めや半期ごと、期末のみに行う面談とは異なり、短いサイクルで定期的に行うことで、部下の悩みや課題、成功や失敗について共有することが可能となる。
1on1の目的は部下の成長促進、および企業力の強化にある。
「1on1」は部下のパフォーマンス向上につながる。こまめに相談をする機会を持つこともできるし、アイデアや改善案を提案することもできる。また、マネージャーとの関係性やコミュニケーションを円滑に図るきっかけとなる。
部下と上司のコミュニケーション円滑化を図ることができる。部下に関する情報を知ることができるし、部下の理解度や提案を聞くこともでき、なにより、個別の特性を見出だすチャンスでもある。
「1on1」は社員全体やチーム全体のモチベーションアップにつながる。チーム・組織にとってのメリットは個人パフォーマンスの向上から派生されていく。組織全体のパフォーマンスが上がることで、業務へのやる気が向上すれば離職率も低下する。上司との共有、部下との共通意識でプロジェクトなどの概要もつかみやすくなるはずだ。
「1on1」導入の手順を簡単に見ていこう。目的の決定と導入の説明・共有・面談場所の確認、1on1の実施というのが大きな流れだ。
会社としての方針を踏まえて目標を明確にしておこう。上司は先に「1on1」導入の「なぜ今のこのようになったか」を、わかりやすく部下に伝えてあげよう。
1on1ミーティングは査定とは違い、部下が主役の面談である。面談を行う上司は現状の明確化をするとともにしっかりと耳を傾けることである。何よりもまずは「相手の話を聞く」ことを意識し、現状把握を正確に行おう。
1on1は「手段」であり「目的」ではない。「部下の本当の気持ちと行動を把握し、本当の目的を達成するための方法を見出すこと」にある。さらに本当の目的を達成するためのプロセスも見ていかねばならない。
方向性などをしっかりとヒアリングした上で、行動計画を作成しよう。数回にわたる「1on1」のスケジュールを確保することでそのときまでにどのように進めていくかという行動予定が立てやすくなる。
「1on1」に慣れるまでは、行動計画表を作成して動いていくとやりやすい。1on1ミーティングを定期的に積み重ねていくことで、日々の業務でトラブルを未然に防ぐこともできるかもしれない。
上司はミーティング内容を振り返ることが必須だ。1on1ミーティングが終わったら、全体の振り返りをしよう。アンケート形式でも構わないので話しやすい雰囲気であったか、言いたいことは述べられたかなどをヒアリングする。
事前準備・実施・振り返り・改善のサイクルは1on1にはつきものだ。その内容を見ながら、部下の成長のためのフォローアップを行う。
「1on1」を効果的に行うには下記のようなスキルが必要だ。「部下の確認」を行うため、今回のミーティングから部下はどのようなことを学んでいるかをつかみ取らねばならない。
コーチング力とは、新たに発明されたものではなく、うまくメンバーの力を引き出し、後進を育てている人たちのコミュニケーションを観察し、その特徴を体系化したものだ。
コーチング力を用いて、部下が自分で目標を設定し、達成までの計画を立て、必要な行動を実践できるよう部下の成功をサポートし、育成を支援する力が必要だ。コーチング研修などを活用して、スキルを身に付けてほしい。
信頼関係構築に一番重要なのは「聴く力」である傾聴力だと言われている。この傾聴のスキルを活用して、部下が「対等に話をしても聞いても らえる」と思うことが必要だ。そのためには、深いレベルで相手をよく理解し、気持ちを汲み取り、共感する傾聴力が必要となる。
質問力とは、相手に不明点や疑問点などを問いかける能力を指し、適切な提案や正しい判断、業務遂行のために「相手の意図や状況を正確に理解すること」が重要だと言われている。
クローズドクエスチョンは「Yes/No」で答えられるような質問を指す。クローズドクエスチョンから話し始めると、責められているように感じる場合があるため、使う場所や状況に応じて使う必要がある。
オープンクエスチョンとは5W1Hなどの質問のことを指す。はい、いいえだけでなく自由に話すことができるため、発想を広げたり、思考を深めたり、物事を具体的にしていくのに活用できる。
このように、クローズドクエスチョン、オープンクエスチョンをうまく使い分け、原因やそれに付随した部下の考えをヒアリングし問題解決をしていかなければならない。
上記のスキルについて、面談研修や1on1ミーティング強化研修などを実施することで、スキルを強化していくことも一つの手段だ。
本記事を作成しているリスキルでは、実際の面談を想定したロールプレイなどを活用しながらスキルを身に付けることができる。ぜひ参考にしてほしい。
効果的な1on1を実施するには下記3つのポイントを意識するといい。
明確な目標を決めなければ、雑談の場になってしまう。あくまでも、「部下の目標に対する進捗状況を共有する場」であることを意識する必要がある。
相手の話に共感を示すというのは1on1ミーティングの進め方としても大切な部分だ。相手の話を聞いてしっかりと相槌をうつことで相手に安心感をもって話してもらい、信頼できると思ってもらうことが重要となる。
実際に「1on1」を活用した企業例を紹介する。
1on1を実践している企業として有名なのが、ヤフー株式会社。ヤフーは、今後の会社の成長のために個々の社員の能力を最大化する必要があると感じ、「部下の才能と情熱を解き放つ」という人材育成のコンセプトを掲げ、1on1を実施しはじめた。はじめの頃は、「時間がない」などの理由で1on1に対して積極的ではなかったようだが、「コーチング」「ティーチング」「フィードバック」の話を聞くための3つのスキルを体系的にまとめ、コーチングについては管理職に研修まで実施したそうだ。そして、現在ではヤフー社員7,000名のうちの約9割が隔週1回以上、約30分の1on1をおこなっており、1on1の効果と重要性を認識しているようだ。
また、2015年には、リクルートマネジメントソリューションズとパートナーになり、「部下面談の基本」や「コーチング」「フィードバック」など、1on1をより有意義にするためのスキル研修「1on1サポートプログラム」を開発している。
レンタルスペースの予約ができるスペースマーケットでもPDCAを高速回転させるために1on1ミーティングを取り入れている。スペースマーケットでは、週1回、30分間、直属の上司と面談をしている他に、月1回の他部署リーダー、社長との面談まであるそうだ。
1on1によって、目標の再確認とその軌道修正ができるようになり、また、毎回マネージャーから「強み」と「弱み」をフィードバックしてもらえるので、組織が社員に求めていることは何か、個々の取り組みにズレが生じていないかを確認できる機会となっているという。
ソフトバンク・テクノロジーも、会社が重視している取り組みの一つとして「1on1ミーティング」を実施している。
「1on1ミーティング」は、企業のビジョンや経営メッセージの浸透と同時に、社員からの意見を吸い上げ、「風通しの良い社風」を実現していく目的があり、頻度は「月に1回30分以上」と決めて、仕事に限らずプライベート含め、メンバーの課題や悩みなどを把握することが期待されている。
働き方の多様化により、上司・部下の関係性が変化していく中、1on1は部下が本来持っている能力を開花させてあげる手段のひとつだ。短期的に見れば効果が見えづらいかもしれないが、中長期的な視点で見ると、メリットが大きくある。そのため、「1on1」を導入して、部下の成長促進し、企業力の強化をしていこう。