人は褒められると喜びを感じるものた。褒められたときの良い気分は、人間関係を円滑にし、少し面倒なことや嫌なことでも頑張れてしまう原動力となる。ただし、褒め方にはポイントがあり、ただ褒め言葉を並べるだけでは、効果は期待できない。
そこで今回は、上手な褒め方とポイントを紹介する。
なぜ褒める必要があるか、疑問に思う方もいるだろう。ここでは、褒めた方が良い理由を紹介する。
たとえばAの作業について褒めると、褒められた社員はAの作業に対してモチベーションが上がる。すると、Aの作業を積極的にこなす状況が生まれていく。このように、増やしてほしい行動を強化する上で、褒めることは必要だと言える。
上司から褒められて、嫌な気分がする部下は少ない。大抵の社員は褒められると嬉しくなり、上司に対して心を開こうとしていく。よって良いコミュニケーションをとる上でも、褒めることは必要だ。
褒めると様々なメリットも期待できる。ここでは、どのようなメリットがあるのか紹介していく。
好意の返報性とは相手に好意を与えると、自分にも好意が返ってくることだ。褒めることは相手に好意を与える行為に該当するため、好意の返報性が期待できる。好意の返報性を活用できている職場では、社員同士で気遣っていることが多い。それが、社内の雰囲気を良くするのにつながる。
褒めると社員達のモチベーションが上がって、職場で働きたい意欲が高まっていく。結果、離職率の低下が期待できる。離職率が下がれば優秀な社員の定着率が上がるため、社内の生産性を落とさずに済む。
単に褒めればいいわけではない。褒め方を間違えると悪い影響ばかり出る。ここでは、やってはいけない褒め方を紹介する。
社員と比較しながら褒めるのは良くない。比較された社員に伝わると、その社員のモチベーションを落とすことになりかねないからだ。
「他の社員よりも仕事ができないと言われてショックだった」「裏では〇〇よりも仕事ができないと言われていたから今の仕事をしたくない」と言ったイメージで、社員から働く気力がなくなっていく。
それが社内に伝わると、比較した上司は社員たちから非難されるようになり、居場所を失くす。自分の首を絞めないためにも、社員との比較は辞めるべきだ。
わざとらしいリアクションで褒めるのも良くない。「本当に褒める気があるのだろうか」と疑われる原因になるからだ。一度部下に疑われると、何を言っても信じてもらえない。その結果、信頼関係の崩壊へとつながっていく。
抽象的な言葉で褒めても、部下は褒められている理由を理解できない。自分の強みが分からない状態で仕事を進めてしまうため、悪い褒め方だと言える。
誰にでもできることを褒めるのも良くない。上司から軽蔑されていると感じるからだ。この気持ちが生まれると、上司に対して心を開かなくなる。場合によっては他の社員に対しても疑心暗鬼になり、チームを信用しなくなってしまう。
褒めるときに、余計な一言を言ってしまうのも良くない。たとえば「〇〇のスピードが速くなったね。業務量を減らしてよかったね」というイメージだ。褒めた後に余計な一言を伝えると部下の気分を損ねてしまい、上司の印象が悪くなってしまう。
ここからは、良い褒め方を習得する方法を紹介していく。
褒めるときは3種類の承認をした方が良い。承認の内容は以下の通りだ。
成果承認とは、部下が挙げた成果を承認することだ。SEであれば「新しいシステムの開発に成功した」。営業職であれば「売上の新記録を更新した」という内容が、成果承認に該当する。
成長承認とは、部下の成長に対して承認することだ。「今までよりも仕事を進めるペースが速くなった」「仕事のミスが減った」といった形で、変化したことを承認していく。成長度合いを把握しながら承認することが大事だ。
存在承認とは、社員が職場に存在していることを承認することだ。上司が業務中に名前を呼んだり、声をかけたりするのは存在承認を満たす1つの方法と言える。
シェイピングとは、いくつかのステップを経ながら、最終的なゴールを目指すことだ。ステップを何個も設ければ、少しずつ難易度を上げながら行動できる。どのようなプロセスを踏みながら進めばいいかが分かるため、ゴールまで進みやすい。ここでは営業職を例に、ステップの組み方を紹介する。
例.1件の成約を目標にする場合
ステップ1:営業手法を身につける
ステップ2:トーク力を磨く
ステップ3:1日100人に営業の電話をする
ステップ4:1日10人のアポをとれるようにする
ステップ5:1件の成約を獲得する
上記のようにステップを組むと良い。ちなみに、シェイピングを用いて褒めるときのコツは「不可能なステップを組まないこと」と「ステップを達成するたびに褒める」ことだ。部下のモチベーションアップを生み出し、目標達成率を上げることになるため、意識した方が良い。
リフレーミングとは、物事を別の視点から見ることだ。同じ事象だとしても、見方によって感じ方は異なる。たとえば部下が「仕事が半分しか終わらなかった」と思っていても、上司が「半分も終わっているから凄いよ」と伝えれば、部下の自己肯定感が上がって、業務に変化が出るかもしれない。これがリフレーミングによる効果だ。
部下が持っていない視点を上司が与えることで、部下の価値観や行動を変えていく。それが、社内の生産性アップにつながる。
相手に理解してもらえなければ部下の成長にはつながらない。この状況を回避するには、言語化して具体的に褒めることが大事だ。
仮に「仕事が速い」と褒めても、言われた側は何の業務がどのくらい速くなったか分からない。しかし「〇〇の業務において、業務時間を短縮できているから素晴らしい」と具体的に伝えると、部下は褒められた理由を理解できる。部下に理解してもらうためにも、具体的に褒めるべきだと言える。
社員によって好きな褒め方は違う。したがって、相手の性格を考えながら褒め方を変えた方がいい。たとえば、このような褒め方がある。
社内で褒めるケースもあれば、オンラインミーティング上で褒めるケースもある。上司の表情を見ながら褒められたい部下に最適だ。
口頭で褒められるのが苦手な部下であれば、メールを送信して褒めてもいいだろう。面と向かって褒められる場合と比べると上司の声を聞かなくて良い分、照れは減るはずだ。
上司から直接、褒められるのが苦手な部下の場合は、本人がいない所で褒めるといい。別の社員の前で言えば、そのうち本人に伝わる。すると、部下のモチベーションアップにつながる。
最後に褒め方のポイントを紹介する。
関係性の悪い上司から褒められても、部下の心には響かない。普段から面倒を見てもらっている上司から褒められたいと思うものだ。よって、部下と良好な関係性を築くのは必要と言える。なお良好な関係性をつくるときは、以下のことを意識すると良い。
日頃から部下に興味を持って接することが大事だ。部下に対して質問をしたり、仕事のサポートをしたりコマメに声をかけたりなど、様々なことを行うといい。部下に興味を持って接すれば、部下も上司に対して興味を持ってくれるかもしれない。すると、お互いが相手のことを考えながら行動していくため、良好な関係性を築くのが楽になる。
相手目線に立って接することも大事だ。上司が良かれと思っても、部下にとっては迷惑になっている場合もある。そのため、相手の性格やタイミングを変えながら接することが重要だ。
相手目線に立って行動すれば、上司に対して悪い印象を持たないため、信頼関係の構築が楽だ。
たとえば「見た目の割には仕事が速いね」「大胆な性格なのに、細かい仕事もできるって凄いね」といった誉め言葉は、相手の見た目や性格に関する発言をしているため、セクハラ認定される。懲戒処分を受ける場合もあるため気を付けた方が良い。
褒められることに慣れてしまうと、喜びを感じづらくなる。そのため、時々叱るのも大事だ。ちなみに叱るときは、以下のことを意識すると良い。
部下の話を聞かずに、上司が叱ってはいけない。なぜなら部下を抑えつける行為につながってしまうからだ。上司が一方的に発言し続けても、部下は納得しない。最悪の場合、関係性を崩壊させてしまう。それを防ぐためにも、相手の言い分を聴いてから叱るべきだ。
「性格が男っぽくないからダメだ」「育ち方が悪い」というように、人間性を否定すること叱り方はNGだ。
人間性を否定された部下は、自己肯定感が低くなり仕事に対するモチベーションが下がる。その結果、社内の士気が下がったり、多様性が失われたりする原因になるため良くない。自分の個性や強みを活かしながら働いてもらう意味でも、人格否定すべきではない。
長時間にわたって叱り続けると、相手の業務に支障をきたしたり、上司に対する印象が悪くなったりする。たくさん叱ったからと言って、全ての内容を1回で分かってくれるわけではない。短時間で叱って、無駄な時間を使わないことが大事だ。
一昔前は怒りながら、社員を育てる会社も少なくなかった。しかし現代では、褒めることに力を入れる企業も増えてきた。社員を褒めれば増やしてほしい行動を強化したり、質の高いコミュニケーションがとれたりするため行った方が良い。
しかも褒める文化が社内に根付けば、社内において「好意の返報性」が働いたり、良好な人間関係が築けたりするきっかけになるため、職場環境の改善にも最適だ。
しかし褒め方を間違えると、社員の成長をストップさせてしまう。とくに以下の内容は褒め方のNG例になるため、行ってはいけない。
悪い褒め方をすると、部下との関係性を悪化させ、社員たちの居心地が悪くなる原因にもなる。働きやすい職場だと感じてもらうためにも、良い褒め方を覚えるのは必須だ。以下のことを意識すると、褒め方が良くなる。
⓵3つの承認を行う
⓶シェイピングを活かす
⓷リフレーミングを用いる
⓸具体的に褒める
⓹社員によって褒め方を変える
その他に、褒め方のポイントもあるため紹介する。
上記のことを行えば、褒めたときの効果が出やすくなるだろう。社内に褒める文化ができれば、社員たちは同じ場所で働き続けたいと思ってくれるはずだ。優秀な人材を流出させないためにも、良い褒め方の習得に力を入れてほしい。
なお、褒め方研修・叱り方研修などを受講することで、上記のスキルをまとめて学ぶことができる。実際にロールプレイなども含めて「少しでも部下の良いところを探し褒める」「悪いところは適切に指摘する」というスキルを身に付けられる内容が推奨だ。ぜひ検討してみてほしい。