ブラザー・シスター制度とは、新入社員に対して同じ部署の先輩社員が業務指導やメンタル面でのフォローをする制度のことだ。若手社員の早期離職が問題になっている中、新入社員の離職防止対策として取り入れる企業が増えてきている。
ブラザー・シスター制度を導入するには、効果性を高める上での導入のポイントを押さえることが大切だ。そこで、今回は、ブラザー・シスター制度の概要、手順やポイントなどを解説していく。
ブラザーシスター制度とは、先輩社員が実務や精神面などにおいて、新入社員へ教育することだ。先輩社員には兄や姉のような振る舞いが求められていることから、このような名称になった。
なおブラザーシスター制度では、新入社員と年齢が近く、同じ部署の先輩社員を指導役として任命している。これは新入社員が相談しやすい状況をつくるためだ。年齢が近ければジェネレーションギャップが発生しづらい。したがって先輩社員に話しかけやすくなる。その状況ができれば、ブラザーシスター制度による教育も濃いものになっていく。
一見、OJT制度とメンター制度も同じような教育制度に思えるが、目的や対象者、指導範囲などが異なる。ブラザーシスター制度とOJT制度、メンター制度との違いを確認しておこう。
OJTとは「On the Job Training」の略称で、実際の業務を通じて行なう教育指導を指す。OJTの主な目的は「実践的な業務スキルを早期に習得する」ことなので、指導は実務指導にフォーカスされており、同じ職場の先輩や上司が指導役になるのが一般的だ。
メンター制度は、精神的な悩みや人間関係、将来のキャリアプランなどをサポートする制度だ。実務ではなくメンタルや心構えといった面でのサポートがメインとなり、キャリアを積んで広い視野を持った管理職層がメンターとして設定されることが多くある。
これに対して、ブラザーシスター制度は、先輩社員が実務や精神面だけでなく、新入社員が組織に馴染むプロセスのケアも行う。そのため、同じ部署でも年齢の近い上司が担当することで、常に相談しやすい環境が作りやすいといえる。
ブラザーシスター制度のメリットは以下の通りだ。
先輩社員がマンツーマンで指導するため、新入社員の不安を解消できる。勤務中に先輩社員へ相談できなかったり、大勢の社員がいる前で悩みを打ち明けられなかったりする新入社員にとって役立つはずだ。
先輩社員の教育によって、新入社員のスキルアップが期待できる。独学でスキルアップできない内容でも、先輩社員に指導・教育を行ってもらうと、新しい気付きを得られる可能性があるため、成長できる可能性は高い。業務のレベルや生産性の向上につながるはずだ。
先輩社員と新入社員で会話する機会が増えるため、社員間の連携力が生まれる。連携力が生まれれば、団体プレーが上手いチームとなり、スピーディーに業務を進めることが可能だ。結果を残したいチームも、ブラザーシスター制度を導入すべきだ。
ブラザーシスター制度の手順は以下の通りだ。
ブラザーシスター制度の実施目的を決める。目的を決めないと、指導役や新入社員は、どの方向に進めればいいか分からない。したがって、運用に支障をきたしてしまう。ブラザーシスター制度を効率的に運用するためにも、目的は決めた方がいいだろう。
ただし目的を設定するときは、新入社員が理解できる内容にすべきだ。非現実的な内容にすると、新入社員はどのように行動すべきか分からなくなる。そのため新入社員のレベルを考慮してから、目的を決めるといいだろう。
実施する目的を定めたら、どの新入社員に実施するか決めていく。全社員に実施するケースもあれば、一部の社員のみに実施するケースもある。新入社員達のスキルや特徴を把握したうえで決めるといい。
全ての新入社員に対して、同じ内容の教育を行ってはいけない。各新入社員の特徴によって、効果的な運用方法は異なるためだ。
相手によって指導方法は変わるため、新入社員ごとにカスタマイズしながら教育した方がいい。
計画した方法をもとに進めていく。なお実践させるときは、以下のことを意識すると良い。
実践させるときは両者から、定期的に進捗状況を確かめることが大事だ。「不明点や問題点がないか」「今のペースで進めていって大丈夫か」といった形で確認するといい。それをもとに、ブラザーシスター制度の進め方を変えていけば、質の高い教育になる。
先輩社員の指示が多いと、新入社員から考える機会を奪うことになる。自ら物事を考えていくスキルが奪われてしまい、上司からの指示が出るまで動けない人間になってしまう。それを防ぐには先輩社員からの指示を減らして、新入社員に考えさせる時間を与えるのが効果的だ。結果、自分で考える習慣ができて、自発的に動ける人間へと成長していく。
新入社員に指導していく立場として、必要なポイントを下記に上げる。
新入社員に指導する場合、実践スキルが一定の基準を超えていた方がいい。スキルが身についていない社員に指導を任せると、良いお手本を見せられないためだ。
一定の基準に達していないことが新入社員に発覚してしまうと反抗したり、やる気のない態度をとったりされる恐れがある。先輩社員としての威厳を保つためにも、実践スキルが身についている社員を指導には必要となる。
実践スキルがあっても新入社員への指導スキルがなければ、理解してもらえない。新入社員の視線に立って指導したり、言葉をかみ砕いて伝えたりなど様々な能力が求められる。
実践・指導ともにスキルを身につけていても、新入社員と上手くコミュニケーションをとれないと教育はスムーズに進まない。新入社員が質問しづらくなる原因にもなるため、積極的にコミュニケーションを取り、信頼構築をしていかなければならない。
ここからはブラザーシスター制度のポイントを紹介する。
新入社員と指導役の関係性が悪いと、ブラザーシスター制度の効果は出づらい。よって、指導役は関係性を構築すべきだ。効果を挙げるには、下記のことを指導役に意識してもらいながら関係構築させると良いだろう。
新入社員とコミュニケーションをとる機会が増えれば、何度も会話することで相手の性格や価値観などが分かってくる。お互いに本音で話せる環境ができあがっていくため、関係を構築するときに有効だ。1対1の面談を設けたり懇親会を行ったりなど、様々な方法でコミュニケーションの機会は増やせる。
ただしコミュニケーションをとるのが苦手な新入社員もいるため、開催スケジュールは相手を見ながら調整すべきだ。
言ったこととやっている内容が違うと、新入社員から口だけの人間だと思われてしまう。そのため、関係性にヒビが入ってしまう恐れがある。新入社員を指導・教育する以上、見本にならなければいけない。そのため、有言実行を意識させるべきだ。
指導役にアドバイスしても、相手に理解してもらわなければ意味がない。自己満足で終わるのではなく、相手に伝わっているか確認しながら話すべきだ。
「〇〇は絶対にやらないとまずい」「〇〇をしないと指導役として失格」というように、意見を押し付けるのも良くない。強要されている感じがして、精神的に滅入ってしまう恐れがあるためだ。滅入ってしまうと指導する力が発揮されなくなる。結果、悪循環に陥ってしまう。
なお押し付けないためには、自分の意見が全てだと思ってアドバイスをしないことが大事だ。選択肢の1つとして伝える程度にすれば、押し付けずに済むだろう。
たとえばチーム内のビジネスチャットで周知すれば、社外にいる社員にも簡単に共有できる。その他に朝礼やミーティングなどで共有する方法もある。周知しておけば仕事の流れが変わったとしても対応できるようになり、メンバーを困らせずに済む。
ちなみに周知で大事なのは対象者全てに伝えることだ。周知の仕方が甘いと、漏れが発生してしまうため気を付けた方がいい。
ブラザーシスター制度のパフォーマンスを上げる取り組みは、様々な企業で実施されている。最後に3つの取り組み事例を紹介する。
三井住友海上火災保険ではファミリー制度と呼ばれるものを導入し、新入社員が育ちやすい環境をつくっている。新入社員のスキルアップに力を入れており、コミュニケーションをとる機会を多くしたり、やりがいを持って働いてもらうための環境を整えたりしている。
また、ブラザーシスター制度だけではなく直属の上司や同じ部署に所属するメンバーも連携して、新入社員をサポートしている。そのため、社内全体で取り組んでいる制度だと言えるだろう。
日本ビジネスシステムズでは、入社から3~5年経った社員が指導役として、新入社員に教えている。専属で指導役がついてくれるため、分からないことがあったときに質問しやすい。
しかも社内にはカフェテリアが設けられており、ドリンクを飲みながら交流できる。緊張しやすい新入社員にとっては、相談しやすい環境だと言えるだろう。
アサヒビールでは新入社員に対して4カ月間、ブラザーシスター制度を行う。指導役となる先輩社員は立候補制で募集しており、モチベーションの高い社員を採用する。従業員同士でサポートし合う関係性をつくるために導入しているようだ。
また自社では、新入社員の育成に関する目標などを記載されたシートを用意して、指導役として動きやすい状況をつくっている。手厚いサポートが用意されていることもあり、指導役として立候補するメンバーも多い。2,3回連続で立候補するメンバーもいるようだ。
新入社員には仕事や社内のしきたりを覚えてもらわなければいけない。しかし苦痛な環境で覚えていっても仕事のモチベーションは上がらず、精神的に滅入ってしまう。
それを防ぐにはブラザーシスター制度を活用して、新入社員が先輩社員に対して話せる環境をつくるべきだ。相談しやすい環境となり、悩みや相談事を溜めずに済む。しかも新入社員のスキルアップや社員間の連携力アップも期待できるため、働きやすい環境になるはずだ。
ただしブラザーシスター制度を導入しても、正しい手順で実践しないと効果は発揮されない。運用するときは、以下の手順に沿って行うべきだ。
大事なのはブラザーシスター制度の目的を決めたり、対象者や指導役を慎重に吟味したりすることだ。適当に対象者と指導役を決めて実践すると、質が悪くなってしまう。その状況をつくらないためにも、事前準備に力を入れるべきだ。
ただし手順通りに行うだけでは、ブラザーシスター制度は成功しない。効果を挙げるポイントもあるため紹介する。
これらを抑えると、より一層運用しやすくなるだろう。新入社員は今後の会社を背負っていく人材であるため、様々な経験をさせた方がいい。そこで価値のある経験をさせれば、会社に還元してくれて、やがて自社の成長につながる。新入社員の戦力を高めるためにも、ブラザーシスター制度を有効活用していただけると幸いだ。