アンガーマネジメントは、多くの企業で取り組まれている。しかし正しい方法を知らなければ実践するのは難しい。スキルを習得しても、実践に活かせなければ意味がない。
そこで今回はアンガーマネジメントを実践する3つの手順を紹介しながら、メリットやポイントなどを紹介する。中堅社員から管理職など、チームメンバーと関わって仕事をしていく方にぜひ読んでほしい。
アンガーマネジメントとは、怒りの感情をコントロールすることだ。
元々は自分の心理状態をコントロールする個人向けのトレーニングとして用いられていた。現代では会社の研修など、様々な場所でトレーニングや研修が実施されている。
企業でアンガーマネジメントが注目されている理由は、怒りの感情によるハラスメント被害が横行したためだ。ハラスメントが原因で、精神的に病んだり退職に追い込まれたりするケースも存在しており、多くの企業でハラスメントによる被害が深刻化していた。
しかし、ハラスメントに関する処罰が厳格化されてきたこともあり、ハラスメントが起きない体制を作る企業も増えてきた。そんなときに注目されたのがアンガーマネジメントだ。
アンガーマネジメントを習得すれば、ハラスメントの原因である怒りにうまく向き合えるようになるため、ハラスメントの発生件数を抑える効果が期待できる。結果、注目されるようになったのだ。
アンガーマネジメントを習得させるメリットは以下の5つだ。
アンガーマネジメントが必要となる人材は、管理職や新人教育担当・中堅社員など従業員の育成に関わる方々だ。一昔前と違って様々な価値観を持った部下が存在する。指導において個々を丁寧にマネジメントすることが重要になるが、それを実現させるには相手に合わせて伝えることが必要だ。指導形式を同じにしても、各従業員によって理解度が異なるためだ。根気強く、指導していかなくてはならない。
価値観が合わず怒りが生まれるかもしれないが、それを爆発させてはいけない。怒りに身を任せて指導をしてしまうと、部下とのコミュニケーションが雑になり指導の質も落ちてしまう。
しかしアンガーマネジメントによって自分の感情をコントロールできる力を習得すれば、部下とコミュニケーションをとりやすくなり、育成中に溜まるストレスも軽減される。そのため育成に活用できるのだ。
怒りに身を任せて行動することが減るため、理性を保ちやすくなる。TPOをわきまえた行動がとれるようになり場の空気を読み取りながら、行動できる社員が増える。
また周囲の影響を受けやすい方であれば、他の社員から指摘されたとしても自分の軸を持って冷静に考えた上で対処できるようになる。人に流されない意味でも、アンガーマネジメントのスキルは役立つはずだ。
怒りに支配されて、1つのことしか見えなくなるケースもある。しかし、アンガーマネジメントを活用すれば冷静に物事を判断できるようになるため、視野を広げやすくなる。
新しいアイデアが思い付いたり、他のことに目を配れるようになったりなど業務において役立つ。1つのことに没頭しがちな方も、アンガーマネジメントを習得するといい。
怒りによって仕事がはかどらなくなる機会を減らせるため、業務効率アップにもつながる。淡々と作業できるようになり、怒りによって手が止まったり作業が中断したりすることを減らせる。業務時間を短縮させるのにも最適だ。
職場の全社員がアンガーマネジメントを習得すれば、職場環境が良くなる。組織としての成果を出すためには、行動や結果などの目に見えやすい部分のみを追えばいいわけではない。同時に現場で働く社員間で、良好な関係性を築くことも重要になる。
アンガーマネジメントを用いたコミュニケーションは、良好な関係性を維持することにつながる。よってアンガーマネジメントは、職場環境を良くするのに役立つ。
アンガーマネジメントを実践するときは、手順があるため紹介する。
ひと口に怒りと言ってもタイプは様々だ。失敗したことに対して怒りを感じる方もいれば、目標を達成できなかったことに対して怒りを感じる方など、様々なタイプに分かれる。タイプによって、対処方法が異なるため最初の段階で把握させることが大事だ。
怒りを感じても外に出さないよう意識していく。無意識の状態だと、自然と怒りを外に出してしまう。意識することを覚えれば、やがて無意識の状態でも怒りを出さなくなる。
体制を整えたら、怒りをコントロールしていく。ただしコントロール手法はたくさん存在するため、自分に合うものを選べるかがカギになる。代表的な手法は以下の通りだ。
怒りが発生してから6秒間数える手法のことだ。人間の怒りは6秒間経てば静まると言われており、その性質を利用したものとなっている。
怒りを生み出す原因になっている言葉を、別の単語に言い換える手法もある。たとえば「腹が立つ」というワードであれば「そんなときもあるよね」「たまたまか」といったワードに置き換えるイメージだ。
前向きな言葉に置き換えると、怒りが収まりやすくなる。相手を許せるようなワードに置き換えるのがコツだ。
怒りが生まれたときに、過去に体験した嬉しかったことを思い浮かべて怒りを逃がす方法だ。友達と旅行へ行ったときや、難易度の高い資格を取得して喜んでいる姿などを思い出すといい。
楽しかったことを思い浮かべれば、いつの間にか怒りが沈んでいる状況に持っていきやすい。よってアンガーマネジメントに役立つのだ。
深呼吸をするのも、怒りを逃がすのに効果的だ。深呼吸には、自律神経を整える働きがある。副交感神経と呼ばれるものが交感神経よりも優位に働くようになり、リラックスしやすくなる。結果、怒りを逃す方法として効果的なのだ。
ちなみに深呼吸をするときは、息を吸うよりも吐く時間を長くした方がいい。より一層、深呼吸による効果を得やすくなるはずだ。
アサーティブ・コミュニケーションとは自分の感情を抑えることなく、相手へ正直な気持ちを伝えながらとっていくコミュニケーションのことだ。4つのステップを経て対話していくことになっている。
相手がどんな状況か、事実をベースにして話す。「昨日、打ち合わせに遅れた」「毎回納期までに仕事を完了させてくれない」といった形だ。自分の気持ちや感情を交えてはいけない。誰が見ても分かる事実のみを伝えることが大事だ。
話した事実をもとに、相手にどのような気持ちか伝えていく。「打ち合わせに遅れてきたから、仕事をしたくないのかと思った」、「納期までに仕事を完了しないので、やる気を感じません」といったイメージだ。
⓵と⓶を交えて、相手に求めていることを具体的に提案する。「打ち合わせに遅れるときは事前に伝えてほしい」「納期までに納品できない場合は、〇日前までに言ってほしい」と言った形だ。
ここで大事になるのは具体的な内容を伝えることだ。たとえば「やる気を出してほしい」だけだと、相手は何をすればいいか分からない。相手がどのようなアクションをとるべきか、想像しやすいように伝えることがカギだ。
相手が「Yes」と言った場合は〇〇の行動をとる。「No」の場合は〇〇の行動をとらない。と言った形でアクションを決めていく。ここで注意すべきことは、⓷のステップに戻らないことだ。⓷に戻るとアクションを決めるまでの時間がかかってしまうため気を付けた方がいい。
最後にアンガーマネジメントにおけるポイントを紹介する。
怒りは人間にとって大事な感情だ。怒りの感情を0にしようとすると、感情を失ってしまい精神的に滅入る恐れがある。「怒りを持つのは当たり前」という意識を頭の片隅に置きながら、アンガーマネジメントに励むことが大事だ。
怒りの原因になるものを、遠ざける生活を送るのも重要だ。仮に仕事に関して怒りが湧いている場合は、仕事の書類や事務用具などを目に見えない場所に置くといい。目につかない場所へ置いておくと、怒りが湧きにくくなる。
怒りを引きずると、翌日以降の生活に支障をきたす場合がある。その状況にならないよう、怒りを引きずらない仕組みを作っておくことが大事だ。たとえば、このような仕組みを作っておくといい。
たとえば寝る前に翌日のことを思い浮かべれば、その日に起こった怒りの感情を忘れやすくなり、感情のリセットが楽になる。翌日のランチや仕事後に何をするかなど、考えるだけでワクワクできることを思い浮かべるといい。
ケーキを食べたりマンガを読んだりなど、好きなことをしてリセットする方法もある。好きなことをすれば、楽しいことに夢中になるため、怒りを忘れやすくなる。好きなことができるよう、普段からいくつか準備しておくといい。
「はい、終わり」「次いってみよう」など、その言葉を言った段階でリセットになる仕組みを作るのも効果的だ。言っただけで気分を入れ替えられる言葉にすると、効果を発揮させられる。
怒りの中には、自分で変えられないものも存在する。たとえば、過去に起こったことが原因で発生した怒りは、自分ではコントロールできない。なぜなら過去を変えることはできないためだ。
自分で変えられない怒りに対してエネルギーを注ぐのは非効率的だ。その状況が続くと悪循環に陥ってしまう。精神的に滅入らないためにも、スルーするスキルも必要だ。
人によって価値観は異なる。そのため自分が正しいと思い伝えた意見でも、否定される場合は十分ある。自分の価値観を横に置くことで、違う意見があったときに「否定された」ではなく、「そんな考えもあったか」とポジティブな発想に変換しやすくなる。
他の意見に対して肯定的な考えを持てば、怒りが生まれることは減る。したがって自分の価値観を横に置くのも、アンガーマネジメントをするときのポイントなのだ。
アンガーマネジメントは、自分の怒りをコントロールしたいときに役立つスキルだ。
アンガーマネジメント研修などを実施して、社内で広めた方が良い文化だと言える。
具体的なメリットは以下の5つだ。
1.育成に活用できる
2.理性を保ちやすくなる
3.視野を広げやすくなる
4.業務効率アップにつながる
5.職場環境が良くなる
人格を形成する材料になる他に、社員が働きやすい職場づくりにも役立つため、会社にとってもメリットになる。ちなみにアンガーマネジメントは以下の手順で実践させると、行うのが楽だ。
これらのステップを踏めば、アンガーマネジメントを活用しやすくなる。怒りをコントロールする方法は色々とあるため、各社員に合う方法を実践していただきたい。