「オワハラ」という言葉をご存知だろうか。「就活終われハラスメント」と呼ばれるもので、企業側が内定者に向けて就職活動の終了を強要するような行為のことだ。
憲法で定められた職業選択の自由を侵害する行為であり、2024年4月16日に国からも呼びかける声明が出ている。
本記事では、企業の人事・採用担当者向けに、オワハラ行為を行わないためにはどうすれば良いか・その対策について解説していく。採用選考活動が開始したこの時期だからこそ、ぜひ参考にしてほしい。
まずは、オワハラについての理解を深めていこう。
オワハラとは、「就活終われハラスメント」とも言われる、企業側から内定者への就活を妨害する行為のことを指す。厚生労働省からの資料には以下のように定義づけられている。
オワハラとは何か |
---|
オワハラとは、企業などが新規学校卒業者等の採用において、内定や内々定を行うことと引き換えに、学生の意思に反して他の企業などへの就職活動の終了を強要するようなハラスメント行為です。 |
厚生労働省「事業主・職業紹介事業者の皆さまへ 学生の職業選択の自由を損害する『オワハラ』は行わないでください!!」より引用
オワハラの行為としてよく挙げられるものは以下の通りだ。
このように、様々な形で内定者へ圧をかけ、自社への入社を強制的に決めさせる・内定辞退をさせないような行為がオワハラと判断される可能性が高い。
オワハラが発生してしまう理由としては、大きく以下の3つが挙げられる。
2015年に、就職活動が早まり学業に専念できない学生が増えた。このことにより、経団連に加盟している大手企業などの選考解禁時期が後ろ倒しとなった。(経団連加盟企業:採用選考開始は8月スタート)
つまり、経団連加盟企業については内定を出せる時期が後ろにずれこんだものの、該当しない中小企業などは従来通りはやめに内定を出すことができたという状態になった。
これにより、早めに内定を出した企業がその後の内定辞退や就職活動をやめさせるため、オワハラと判断される行為が発生した。歴史的な背景としてはこれが原因と言われている。
企業では、新入社員の採用目標数が決められていることがほとんどだ。
採用目標人数に対して、予定通り採用できなかった場合や内定辞退により責任を問われることを避けたいという思考から行為に及ぶ場合がある。
失敗をしたと思われたくない、上司から責められたくないというプレッシャーからオワハラを起こしてしまうことも考えられる。
1人採用することに関わるコストは大きい。そのコストを無駄にしたくないという考えから内定承諾書の提出を急かしたり、脅迫とも捉えられる言動をしてしまう場合がある。
オワハラに関しては、国からも以下のような要求ができている。職業の自由を奪うような行為をせず、安心して就職活動に取り組める環境を整えてほしいという内容だ。
2025年(令和7)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請 |
---|
我が国の持続的な発展のためには、若者の人材育成が不可欠であり、学生が学業に専念し、安心して就職活動に取り組める環境をつくることが重要です。しかしながら、近年、学生の就職活動は、早期化・長期化する傾向にあることに加え、就職・採用活動の開始日より前にインターンシップ等と称して実質的な採用選考活動が実施されるなどの事態が生じているほか、就職活動を行う学生に対するハラスメントが問題となっています。 これらは、学生に混乱をもたらすとともに、学業に専念する機会や、安心して就職活動に取り組める環境を大きく損なうものです。また、採用と大学教育の未来に関する産学協議会の整理に基づいたインターンシップ等が開始されるようになるなど、学生の就職・採用活動に関する新たな取組も進んでいます。こうした状況を踏まえ、政府として「2025(令和7)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請事項」を取りまとめ、令和6年4月16日付で経済団体等(1314団体)に要請しましたので、お知らせいたします。 |
2025年度卒業・終了予定者等の就職・採用活動ルール |
---|
広報活動開始 :卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降 採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降正式な内定日 :卒業・修了年度の10月1日以降 その上で、専門活用型インターンシップ(2週間以上)で春休み以降に実施されるものを通じて高い専門的知識や能力を有すると判断された学生については、そのことに着目し、3月から行われる広報活動の周知期間を短縮して、6月より以前のタイミングから採用選考プロセスに移行できることとする。 |
内閣官房「2025年(令和7)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請」より引用
職業選択の自由を奪うことになったり、ケースによっては脅迫罪・強要罪にあたる場合も考えられる。SNSでの発信なども多様化している現代社会において、オワハラは企業イメージを損なうことにもつながるため、企業としても防がなければならない。
では、採用・選考に関わる社員がオワハラと判断される行為をしないためにはどのようにすれば良いか、対処法や取り組みについて解説する。
オワハラ行為を行うのは、人事・採用担当者だけではない。面接官をお願いする社員や職場見学を担当する社員など様々だ。
企業として、就職活動で自社に興味を持った方・来社した方・職場見学をした方から内定者までへの適切なアプローチは何か、という方針を共有していくことが良いだろう。
採用・面接に関するガイドラインを作成することで、リスクマネジメントにもつながるためおすすめだ。
内定承諾期限があるため、焦って催促してしまいオワハラと受け取られるようなことは避けたいものだ。企業の状況やルールにもよるが、内定承諾期限を柔軟に設定できるような仕組みを作ることも一つの手段だろう。
内定者にとって、内定を受けた後のスケジュールが提示されないことは不安に感じてしまうものだ。行う研修や懇親会など、全体像がわかるスケジュールを渡しておくことが良いだろう。
なお、内定者期間は雇用契約を結んでいないため、研修や懇親会についても「自由参加(任意参加)」であるという表記はしておきたい。
また、参加の有無により入社後の評価や配属先が左右されたり、内定取り消しなどはないということも併せて伝えておこう。
結果論にはなってしまうが、そもそも「自社にぜひ入社したい」という内定者であれば、オワハラをせずとも問題なく入社してくれるだろう。
採用期間内に自社の魅力を上手く伝える工夫ができているか、採用活動を続けたけれどもやっぱりここが良いと思ってもらえるようなフォローをしているかなど、現状を振り返ることも良いだろう。
内定者に向けて内定者研修を実施するという企業は多いが、採用面接をする側、人事担当者側に対して改めて研修や勉強会を実施するという企業は多くない。
上記でも伝えたガイドラインを発信する場を設けたり、今年度の面接官となる方には研修や注意してほしいことを伝える面接力研修を実施する、人事研修を実施するなども効果的だ。
本記事では、オワハラとは何かというところからそれを防止するために企業としてできることを解説してきた。
採用期間から内々定、内定後~入社までの期間まで、企業側からのアプローチには十分な配慮が必要だ。この記事で紹介した対策や取り組みを見て、考えるきっかけとしてほしい。
まずは、現状自社での取り組みやアプローチに問題がないかを振り返った上で、最適な対応をしてほしい。